2018年10月22日 月曜日
複雑な市況を乗り切るM&Aという新しい選択
Written by 太田 諭哉
大手飲食企業が続々と低価格な業態に参入
外食産業に携わる経営者にとって、衝撃的なデータがある。国内最大手の信用調査会社帝国データバンクの調査によると、2017年の飲食店の倒産件数は、707件で過去最多(前年より150件も増加!)。しかも、倒産の原因は『販売不振』が最も多く、倒産した飲食店の大半が個人経営などの小規模事業者だという。 これは不況という単純な理由だけではなく、超低価格の焼き鳥店など、今までは個人店や小規模事業者の領域だった業態に大手飲食企業が続々と進出していることが少なからず影響しているだろうし、その流れは今後も続くと考えられる。 「この状況はマイナスといえばマイナスかもしれませんが、大手企業に負けずお店を成長させたいと考えている経営者さんにとっては、とてもいい状況だともいえます。大手企業が個人店や小規模店舗の業態に関心を持っている、ということですから」 こう話してくれたのは、公認会計士・税理士であり、飲食店の経営指南や、事業拡大のための資金調達、M&Aを手がける『スパイラルコンサルティング』の代表・太田諭哉氏。とりわけ、個人店にとっては脅威であるはずの大手企業に侵食されかねないこの状況が「プラスになる」というのはどういう事なのだろうか。 「社長個人のリスクで金融機関から資本を調達するのではなく、大手企業や投資ファンドの資本力や高度に専門的なノウハウを借りて、一気に成長できるチャンスがあるということです。脅威ではなく、事業拡大のパートナーと考えることができます」
新しい成長戦略となる大手企業との資本提携
経営者にとって、借入の個人保証が外せるのは確かに魅力。しかし、これまで小規模経営者が目指してきた多店舗経営やFc展開では、成長が見込めない状況なのだろうか。 「今までの成功像が古くなったとか、間違っていたということでは全然なくて、創業経営者に新しい道が拓けた、という表現が正確ですね。M&Aというと手塩にかけたお店を売り渡す、みたいなイメージがあるかもわかりませんが、全てを譲る必要はなくて、例えば、海外進出したいオーナーさんがノウハウを持つパートナーと資本提携して海外進出を加速する、といった夢を実現するために明確な目的を持って行う提携のモデルもすでに生まれています」
潤沢な創業者利益で『新しい夢』を実現
「もちろん、会社の全株式を譲渡し、潤沢な創業者利益を確保して、早期リタイアするのも経営者としての立派な出口戦略です。ただ、創業経営者さんの多くは、起業家気質が強く、リタイヤではなく、むしろ、新しい次の夢の実現のためにM&Aという選択をされている印象です」 新しく拓かれたというM&Aや資本提携には、手放しで歓迎できる明るい未来が待っているのだろうか。 「もちろん、うまくいかない例もあると思います。M&Aは成長戦略ですから、安易な選択をしてしまった場合には、弊害が出てしまいます。提携する両者のメリットを最大にするためには、相互理解にしっかり時間をかけることが大切です」 今までの常識では考えられないスケールの成長が可能なM&Aという新しい経営戦略。これからの経営者には、銀行などの金融機関だけでなく、大手企業と対等に交渉できる情報と経営力を持つことが求められる。