2018年11月26日 月曜日
既存事業とのシナジーよりも経営者の“成長への意思”を優先してM&Aの相手を決めています
Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)
広告配信プラットフォームなどを展開する「アドテクノロジー領域」、メディア運営などを行う「コンテンツ領域」、スマートフォンゲームアプリを開発する「ゲーム領域」、そして有望なスタートアップ企業への投資を行う「インベストメント領域」。
4領域で事業展開し、連結売上高144億4,442万円(2018年3月期)にまで拡大しているユナイテッド。
社名は「多くの事業体の連合体」であることに由来し、積極的にM&Aを実施しています。
社長である金子さんは、実は自身が起業した会社をユナイテッドの前身である会社に売却。
グループ入りした後、売却相手の会社の経営に携わることになったという経歴の持ち主です。
そんな金子さんに、ユナイテッドが実施しているM&A戦略の詳細を聞きました。
ユナイテッド株式会社
代表取締役社長 COO 金子陽三
[プロフィール]
1976年、群馬県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後の1999年にリーマン・ブラザーズ証券株式会社東京支社へ入社。その後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタル、ドレーパー・フィッシャー・ジャーベットソンを経て、2002年にインキュベーション・オフィスを運営する株式会社アップステアーズを設立し、代表取締役社長就任。2004年に同社をネットエイジキャピタルパートナーズ株式会社(現:ユナイテッド株式会社)へ売却。2006年に売却相手のネットエイジキャピタルパートナーズ株式会社の取締役に就任。2007年、ngicapital株式会社(現:ユナイテッド株式会社)と社名が変わった後に代表取締役社長就任。低迷していた業績を回復させる。2012年、企業合併により現社名となったユナイテッド株式会社の代表取締役社長COOに就任。果敢なM&A戦略を推進し、多様性の高い企業グループの形成にまい進している。
Contents
会社を売却する経営者の
気持ちが“痛いほどわかる”
──ユナイテッドはM&A戦略を積極的に推進していますね。企業売却の相手先としてのユナイテッドの魅力はなんですか。
会社を売却する経営者の気持ちが“痛いほどわかる”という点でしょう。いま、自社を成長させていくうえで、どのような点が課題になっているのか。経営者にとって、自社を売却し、ユナイテッドにグループ入りする最大の理由は、その課題解決であるケースがほとんどです。
たとえば「人材が不足しているので送り込んでほしい」「資金が不足しているのでおぎなってほしい」「自力での販路開拓に限界があるのでカバーしてほしい」など。グループ入りしてくれた経営者のそんな想いによりそい、課題解決のための適切な手を打ち、企業成長を支援していく。それが私たちのM&A戦略の根幹にあります。
──積極的なM&A戦略で拡大している会社のなかには、「買収した会社の経営陣を入れ替え、自社の既存事業とのシナジーを最大化するための事業戦略を優先して、M&A前に描かれていた企業成長のための構想はまったく考慮しない」という方針を執るところもあると思います。しかし、ユナイテッドのM&Aの場合は、グループ入りした後、ほとんどの会社で経営者が残り、その経営者が思い描いていた構想が実現するように支援しておられますね。
ええ。その背景には、私たちユナイテッドが多くの企業が合体することで発展してきた会社だ、ということがあります。私自身、自分で起業した会社をユナイテッドの前身の会社に売却して、グループ入りした経緯があります。そういう人材が集まっているので、自社を売却する経営者の気持ちがよくわかるのです。
そして、「日本を代表するインターネット企業になる」という大きな目標を共有しつつ、さまざまな事業があり、さまざまな人がいて、ユナイテッドという会社が成り立っています。「これがコアの事業・商品・サービスだ」というような会社名を代表するサービスがあるわけではありません。ですから、M&Aの相手を決定するとき、ユナイテッドの既存事業とのシナジーが見込めるかどうかは、最優先ではない。それよりも、「事業にどれだけ成長の可能性があるか」「成長させるのに、ユナイテッドの支援がどれだけ有効か」といった観点からの評価を優先しています。
緊急事態にバックアップを提供
グループ入りで倒産を回避できた
──M&A市場では、まだまだ買受企業の意向のみが優先されるケースが多い印象です。当社では、M&Aを企業の成長戦略のひとつと位置づけ、会社や事業を成長させて、その評価を高めることによって、M&Aを成功に導く「SCALE(スケール)」というサービスを提供しています。M&A戦略において相互のメリットを明確に唱える御社の考え方には、とても共感を覚えます。
買受企業として「事業の成長性」「支援がどれだけ有効か」を評価するポイントを教えていただけますでしょうか。
いくつかありますが、ひとつあげるとすれば、経営者にどれだけ成長への強い意思があるか。その事業にいちばん思い入れがあるのは、事業を立ち上げた創業経営者である場合がほとんどです。「成長させたいが、この点が壁になっている」という課題をよく知っているのも、その経営者です。だから、意欲の高い経営者には、グループにジョインした後も残ってもらい、その経営者が抱えている課題を解決するサポートを提供していくのが、いちばん効率的なやり方なのです。
──ユナイテッドにグループ入りすることで、成長への壁を突破できた具体事例をいくつか教えていただけますか。
まず、プログラミングやアプリ開発を学べるオンラインスクールを運営するキラメックスの例を紹介しましょう。グループ入り以前は7~8名の会社でしたが、当社から技術者をはじめ7~8名を出向してもらいました。「人的リソースが足りないので、やりたくても実現できないことがたくさんある」という課題があったからです。2倍の陣容にしたことにより、グループ入り以前と比較すると、年間売上高が約10倍になりました。
次に、課金ゲームユーザー向けゲームプラットフォームを運営しているSmarpriseの事例。こちらは、動画を活用した新規事業を立ち上げるために、スタートアップの経営や事業開発の経験をもつ社員を出向させました。「さらなる企業成長のためには、柱となる事業がもっと必要だが、事業開発のリソースが不足している」ということが壁になっていたからです。新規事業立ち上げに成功したことで、柱となる事業が増え、経営基盤が安定。成長軌道の角度が上がっています。
最後に、髪の毛の悩みと向き合うメディアをリリースしていたアラン・プロダクツについてお話ししましょう。同社は既存の大手医療系サイトを活用していました。ところが、Webサイトのコンテンツの信ぴょう性が社会問題化。アラン・プロダクツのコンテンツも見直しを迫られたのです。Web上にアップされているコンテンツは膨大。それをすべて短期間に書き直すための人員を、ユナイテッドから送り込んだのです。結果、メディアの信用力を下げずにすみました。もし、グループ入りしていなかったら、とても人員を確保できず、このアクシデントにぶつかった時点で経営危機に直面していたかもしれませんね。
“お山の大将”になりたいのか
事業を成長させたいのか
──独力で成功する経営者と、M&Aを積極的に活用して成功する経営者。両者の違いはどこにあるとお考えですか。
経営陣に求められる様々な資質をカバーしているかどうかではないでしょうか。企業のトップには、次の3つのタイプがあります。
①起業家タイプ
ゼロからイチを生み出せる能力をもっている
②事業家タイプ
イチからジュウに企業を成長させる能力をもっている
③経営者タイプ
事業を多角化させるなど企業を発展させていく能力をもっている
この①から③までの能力をすべてカバーできるなら、独力で成功できるはずです。たとえ最初から3つの能力をかねそなえていなくても、企業成長に従って必要な能力を身につけ、自己変革を遂げていける人もいます。でも、たいていは①②③のどれかのタイプ。その場合、自分にない能力が必要になったとき、企業成長が止まってしまう。
それを回避するためのひとつの手段が、企業売却をして大きな企業のチカラを借りることです。ユナイテッドとしても、グループ入りする企業のトップが①②③のどのタイプなのかを見きわめて、その資質にふさわしい役割やサポートを提供するようにしています。
──なるほど。しかし、自分の会社の経営課題や社長としての仕事の限界を感じてはいても、「オーナーシップを手放したくない」と考えて、企業売却に踏み切れない経営者もいます。
そうですね。結局、「なにがしたいのか」ということにいきつくと思います。“お山の大将”になりたいのか、自分が立ち上げた事業を大きく成長させたいのか。もし後者であり、かつ、自分に不足している経営能力に気づいているのであれば、企業売却も選択肢に入ってくるはずです。
個人的な話をすると、私はアップステアーズという会社を立ち上げた起業家でした。ベンチャー企業支援を目的として、リーズナブルな賃貸料でオフィススペースを提供するビジネスです。でも、テナント企業が増えれば増えるほど、経営者の相談に乗ったりする手間がどんどん増えていく。いわゆる“大家さん商売”で、オフィスの賃貸料をとるだけにすれば利益が出るのでしょうが、私がやりたいことはベンチャー企業支援。その矛盾が吹き出して、私ひとりの個人商店では回らなくなってしまった。そこでユナイテッドの前身の企業に売却しました。
「アップステアーズのオーナーシップを自分が確保していたい」という想いはまったくありませんでした。「いまのままではベンチャー企業支援サービスを拡大できない。では、どうしたらいいのか」を考えた結果、「大きな企業グループの傘下に入る」という結論に自然となったのです。
多様性を維持したまま
日本を代表するネット企業へ
──ご自身もM&Aの経験をもつ金子さんが指揮をとるユナイテッドは、今後、どんなグループになっていきますか。ビジョンを聞かせてください。
私たちは「日本を代表するインターネット企業になる」ことを目標に掲げています。読者のみなさんは、現時点で「日本の代表的なインターネット企業」というと、どんな会社を思い浮かべるでしょうか。著名な商品やサービスをもつ企業の名前があがるのではないかと思います。でも、私たちはそういうものをもたずとも、成長していける会社でありたい。
「この事業がコアで、この事業は周辺で」といった区別なく、さまざまな事業が集まっている。事業のマネタイズの方法も多様であってよく、売上がそのまま当社の売上として計上されるカタチでも、IPO時の株式売却でリターンを得るのもアリです。
多様な事業の連合体であり、多様な人々の連合体。そうした骨格を維持したまま、ユナイテッドが日本を代表するインターネット企業のひとつとして認知される。そうなったら、とてもおもしろいですよね。
──「次の成長ステージに駆け上がりたいが、独力で実現するのは難しい」と考えている企業経営者に、アドバイスをお願いします。
いま、IT業界の若い起業家の間では、企業売却は経営の選択肢として当たり前のものになっています。しかし、非ITの業界に属する年配の経営者の間では、企業売却にまだ「身売り」というようなネガティブなイメージが根強くあるかもしれません。でも、そんなイメージのために、企業成長のための有力な手段のひとつから目をそむけてしまっては、もったいないと思います。
今後、ユナイテッドはインターネット業界以外にも視野を広げてM&A戦略を推進していきます。インターネットを活用することにより大きな効果を期待できる領域、つまり「●●×インターネット」で大きく成長できる分野でも、M&A戦略を推進していきたい。
「事業を拡大させたい」「社員にチャンスを与えたい」など、経営者のアタマのなかにはさまざまな理想があると思います。その実現に近づくために、企業売却という手段を積極的に活用してほしいですね。
<会社情報>
ユナイテッド株式会社
UNITED, Inc.
WebSite:
https://united.jp/
上場市場:
東京証券取引所マザーズ市場(証券コード: 2497)
本社:
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-2-5 MFPR渋谷ビル
設立:
1998年2月
資本金:
2,922百万円(2018年3月末現在)
事業内容:
アドテクノロジー事業・コンテンツ事業・ゲーム事業・インベストメント事業
従業員:
連結373名/単体179名(2018年3月末時点)
臨時従業員を含む
『日本を代表するインターネット企業になる』という大きなビジョンを掲げ、広告配信プラットフォームやメディア運営、スマートフォンアプリの開発など、さまざまな事業を展開。「M&Aの積極化」を中期経営計画『UNITED2.0』の重点戦略項目のひとつと定め、有望なスタートアップはもちろん、ミドルレンジ企業への投資も積極的に行っている。