2018年12月6日 木曜日
【M&A用語】M&Aグロースとは
Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)
皆さんはM&Aグロースという言葉は耳にしたことがありますでしょうか?現在、企業の成長が伸び悩んでいる方や企業で展開している事業がなかなか上手くいかない方、また今後M&Aを検討している企業の方は是非この記事を参考にしていただきたいと思います。
今回はこのM&Aグロースの仕組みやメリット、デメリットについてご紹介します。
Contents
M&Aグロースとは
M&Aグロースとは、M&Aを通じて自社にない製品やサービスの資産を買い取り、企業の成長させる企業戦略の事を言います。また「ノンオーガニックグロース」とも呼ばれています。
そもそもM&Aとは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」を指します。広義では複数の会社が同じ目標や目的に向かって努力を行うことを言います。狭義
M&Aは主に以下の様な流れで行われます
- 初期検討
- マッチング
- 条件交渉
- 基本合意
- 経営後の運営
- デューデリセンス
- 最終契約
- PMI
「初期検討」ではどのような企業とM&Aを行うべきか、その企業における買収、売却の計画を立てます。
「マッチング」では実際にM&Aを行うにあたって、最適な買収先、売却先の企業を見つけます。
「基本的な条件交渉」「基本合意」では、M&Aを行うにあたってのルールについて協議し、合意を行います。守秘義務契約といった、M&Aの検討を進める上で必要な契約もこの際に結びます。
「デューデリジェンス」は買収対象企業の詳細調査の事を言います。財務や法務、事業、労務等に関する調査を行う手続きの事を言います。買収金額を決める企業価値算定もこのデューデリジェンスのプロセスの中で行います。
「最終契約」で、売買価格やその他の条件を確定させます。売却側、買収側、双方の同意がとれれば、契約書を交わし、代金の支払などを行います。
「PMI」とはM&Aが成立しその後の事業統合のプロセスの事を言います。買収側企業の文化、経営管理手法に合うように、売却側企業の経営管理を整えていきます。
M&Aグロースのメリットとは
M&Aグロースでは様々な資源を獲得することで、更なる企業の成長を狙います。ここではM&Aの具体的なメリットを見ていきたいと思います。
▼事業成長の加速
M&Aを活用すれば、事業拡大のスピードを上げることができます。いくらお金があっても、事業を拡大していくには、時間がかかります。店舗型のビジネスであれば、新しい立地の選定、不動産の契約、従業員の採用など、1店舗を増やすだけでも多くの労力を費やします。今まで展開していなかった地域に支店を出す場合、その地域で取引先を一から開拓することが必要です。M&Aでは、買収対象の企業が保有する土地、設備といった資産から技術、ノウハウ、取引先から顧客などの無形の資産までを、一度に買い取り、獲得することができます。また、同業の会社を買収した場合は営業エリアの拡大を行う事も可能です。買収した企業に、すでに優秀な人材がいる場合は、人材育成のコストを削減することが出来ます。企業にとって時間は非常に重要な資産です。企業買収により、成長するのに必要な時間を買えることがM&Aの一つの魅力と言えます。
▼事業の多角化/新規事業の参入
一般的に一から新しい事業を作っていくことは時間も労力もかかります。新たな設備投資だけでなく、その事業に合った人材の採用、育成も必要です。規制が厳しい業界では、新たなに規制をクリアするための資格、免許の取得が必要なケースもあります。その様な状況で、事業の多角化を狙う企業が、とりえる有効な戦略の一つがM&Aグロースです。M&Aを行い、様々な企業を買収することによって、自社では手を付けられなかった分野での事業展開を行うことが出来ます。
▼技術の向上
M&Aによって、買収した企業の技術を獲得することが出来ます。新規事業の立ち上げと同様に技術開発にも莫大な資金と時間を要します。技術者を育成し、研究チームを組成し、事業に貢献する技術が生まれるまでのプロセスは容易なものではありません。また、技術者はどの企業も獲得したい人材です。お金をかければいいというものでもありません。M&Aの手法を使えば、技術開発のチームをそのまま獲得することができます。直近では、IT企業がITの技術者の獲得を目的にM&Aを行うこともあります。
▼相乗効果
M&Aを行う事で、お互いの企業の足りない部分を組み合わさって相乗効果が生まれることがあります。異なる地域で展開していた企業同士が地域の弱みを補完する、売却側の企業で活用していた技術を買収側の企業で活用するなど、M&Aにおける相乗効果は様々です。相乗効果によって、それぞれの企業価値がさらに高まることこそ、M&Aの醍醐味といえます。
▼規模の経済
規模の経済は代表的な「相乗効果」の一つと言えます。規模の経済とは、事業をより大きな規模で行うことで、経営効率をあげることです。生産量の増大に伴い、原材料を購入する量が増えれば、価格交渉力が増し、調達コストを抑えることができます。規模の経済は、スケールメリットとも呼ばれています。
M&Aにより、事業の規模を大きくできるというのは、それだけで大きなメリットと言えます。小売業、サービス業であれば、M&Aにより、知名度、ブランド力を大きくあげることができるでしょう。
▼租税回避
節税対策もM&Aグロースのメリットの一つです。税率の低い国の企業を買収することで節税を行う「タックス・インバージョン」という手法があります。この手法は、米国の製薬大手が活用したことで話題になりました。海外企業を買収した後に、第三国に新しい本社を設立することで合法的に節税を行う手法です。ただし、各国政府はもちろん課税逃れは避けたいと考えているため、「タックス・インバージョン」に関する規制は強化される傾向にあり、注意が必要です。
M&Aグロースのデメリットとは
では次にM&Aを行い、M&Aグロースの企業戦略を行うと、どのようなデメリットがあるのでしょうか?主なデメリットを見ていきます。
▼相乗効果の不確実性
多くの企業が相乗効果を求めて、M&Aを行いますが、事前の計画通りに相乗効果が得られるとは限りません。計画と実行はやはり異なるもので、デューデリジェンスをしっかり行っても、買収後に想定外のトラブルが起こることもあります。買収した企業の資源をうまく活用できない場合もあります。相乗効果がでない場合、買収にあたって投じた様々な予算も無駄になってしまいます。
▼統合の失敗
買収後の企業の統合プロセスをPMI(Post Merger Integration)と呼びます。企業が違えば社風や待遇などの企業文化の違いに差が出てしまいます。企業による文化の違いは、技術開発の方法など、現場のオペレーションにも表れます。買収側企業は自社の経営管理手法に合わせて、買収した企業を管理しようとします。一方、今まで別の文化、規則で経営されていた企業がすんなりと買収側のルールで経営ができるわけではありません。人事制度や、会計管理の手法など、あらゆる制度を合わせていく必要があります。企業によっては、条件に合ういい会社を安価に買収できたとしても、この統合のプロセスに失敗し、M&Aグロースに繋がらないケースがあります。
▼人材の流失
M&Aを行う際に注意したいのが優秀な人材の流失や離職です。M&Aで企業が合併すれば会社の規則や文化なども変わっていきます。場合によっては、雇用契約も更新が必要になります。そのため、労働環境の変化によって離職の可能性も高まってきます。
企業の発展や成長には人材が不可欠です。スキルのある従業員の流出は避けなければなりません。優秀な人材なしでは、狙ったM&Aグロースを得ることはできないでしょう。人材の流出リスクを加味して、M&Aでは、買収側と売却側で秘密保持契約を結び、ディールが成立するまで、秘密裏に行われることが多いです。
▼簿外債務
貸借対照表上に記載されていない債務を簿外債務といいます。M&Aでのもめごとの一つにこの簿外債務があります。デューデリジェンスの際には発覚しなかったものが、買収交渉後に明らかになるケースがあります。買い手側はこの様なことがないように、財務リスクは買収交渉前に入念に監査することが必要です。
▼偶発債務
偶発債務も簿外債務と似たリスク要因です。買収後に買収した企業が訴訟を起こされるなど、偶発的な出来事で債務を負うことを言います。偶発債務を回避するには、デューデリジェンスの際に、過去の営業活動に鑑み、訴訟などのトラブルが起こるリスクを見極める必要があります。しかし、訴訟の様なトラブルはどうしても不確実な要素であるため、事前に見極めるのは困難です。偶発債務が指し示すように、デューデリジェンスで監査が必要な項目は多岐にわたります。どれだけ計画的に行っても、M&Aが想定通りに進まないケースがあることに留意しましょう。
▼のれんの減損
「のれん」とは、M&Aの際、会社を買収した際の買収金額と実際にその会社が持つ純資産額との差額を指します。この「のれん」の減損処理は、M&Aの際の大きな損害になりかねません。
企業価値の算定時に、買収側の企業は売却側企業の貸借対照表に記載されている純資産額を参照します。その際、実際に記載されている金額ではなく、その金額を時価に置き換えて算出します。設備を購入した際の値段と売却する際の値段は、当然ながら時間が経過しているために変化します。貸借対照表に載っている資産は、今売却するといくらになるのかを把握しないと、現在の企業価値は算定できません。
一方、企業価値の算定は、その企業への将来の期待も含めて算出します。将来の期待には、ブランド、技術力、従業員のスキルなどが含まれます。これらの無形の資産も考慮した上で、企業価値は算定されます。その場合、先に計算した純資産額よりも買収金額が上回るケースがあります。この純資産額と買収金額の差が「のれん」です。「のれん」は、高くなる場合もあれば、低くなる場合もあるので、一概にデメリットとは言えません。また、「のれん」の会計処理は日本と国際会計基準でも異なり、どの会計基準で変わります。ただし、この「のれん」を理解していない場合、思わぬ大きな損失を出してしまいます。M&Aを行うのであれば事前の理解が必要と言えるでしょう。
M&Aグロースに関連のある用語
M&Aには普段聞きなれない用語が多くあります。スムーズな理解に繋がるように、M&Aグロースに関連する用語を解説します。
オーガニックグロース
オーガニックグロースとは企業内部の蓄積されたサービスや技術、商品などの既存事業を活かし自立的に収益を拡大する事です。M&Aグロースはノンオーガニックグロースとも呼ばれます。買収を行う事で売却企業のサービスや技術を取り入れるM&Aグロースはオーガニックグロースとは対照的なアプローチになります。
コア事業
コアとは「核」の事を言います。
コア事業とは企業が複数の事業を営む場合に、企業の中で相対的に競争力がある事業、または企業が経営資源を集中している事業のこと言います。複数ある事業の中心に位置する事業とも言えます。
対照の言葉ではノンコア事業というものもあります。これは非中核事業を指します。事業がコア事業ではなく、ノンコア事業だと分かった場合には、企業にとってその事業はM&A売却の対象として検討を行う場合があります。
選択と集中
選択と集中は企業が多角化し、様々な製品、サービスを扱っている場合に、数ある事業の中でコア事業を見極め、そのコア事業に経営資源を投入していくことを指します。経営の効率化を目指すための、経営戦略の一つです。
選択と集中により、保有している経営資源を最大限に活用し、、経営を効率化することが出来ます。一方、得意な分野で力を入れることで、事業に適していない人材が離職してしまうリスクがあります。
まとめ
いかがだったでしょうか? M&Aグロースについてご紹介しました。事業成長の速度を上げるなど、M&Aには様々なメリットが存在します。M&Aグロースを企業戦略に取り入れることで、企業はさらに成長できるでしょう。ただし、デメリットも存在します。M&Aを行うにあたっては、事前の準備をしっかりと行い、M&Aが成功した後に、どのように買収した企業の資源を活用していくのか、どのようにグループ全体が成長していくのか、具体的なイメージを持つことが重要です。事前準備や、基本的な知識をおさえずにM&Aを行うと思わぬ損失を被ることになるので、注意しましょう。