2018年12月6日 木曜日

【M&A用語】In-outとは

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

近年、インターネットの発展も相まって、新しい技術を開発する海外企業のニュースを目にする機会が増えてきました。それらの技術の獲得、海外進出など、様々な理由で、多くの日本企業が海外企業のM&Aに興味を持っていると思います。そんな方の為に今回はM&Aの方法で、最近増加傾向にあるIn-out、国内企業(In)が海外企業(out)を買収するM&Aについて、その方法やメリット、デメリットをご紹介します。

 In-outとは

上記で説明した通り、In-outとは国内企業が海外企業を買収対象とするM&Aの事を言います。別名では「クロスボーダーM&A」とも呼ばれることがあります。逆に海外の企業が日本企業を買収することをOut-inといいます。

人口減少による国内市場の縮小等を背景として、日本企業が成長する海外に活路を見出し、積極的にアジア、欧米などの巨大マーケットへ進出する傾向が多くなっています。

日本におけるIn-outは実は古くから行われており、1980年ごろのバブル期では「海外買い」と言われ行われていました。

一時は落ち着いていましたが、リーマンショック後の円高の局面を好機と考え、近年では攻勢に買いを仕掛けている日本企業も多く存在しています。

In-outの例としては松下電工によるアンカー・エレクトリカルズの買収、ブリジストンによる米ファイアストンの買収、ソニーによるコロンビアピクチャーズの買収、三菱東京UFJ銀行によるタイのアユタヤ銀行の買収、LIXILグループおよび日本制作投資銀行による衛生陶器大手独グローエの買収などがあります。

実施している企業を見ると、大手企業のイメージを持つかもしれませんが、中小企業もIn-out型M&Aを実施していることが多くなってきているのが最近の傾向です。原因としてはアジア地域の成長を目的としてこのIn-outのM&Aを行っていることが挙げられます。企業の規模にかかわらずに、経営戦略の一手としてM&Aを実施している企業が増えています。

In-out型のM&Aは為替の影響も強く受けます。日本のお金で海外の企業を買うことになるので、円の価値が高い(円高)時は海外企業を安く買うことができます。反対に円の価値が低い時(円安)は、海外企業の買収額が割高になります。日本でも2009から2012年は、急な円高を理由に、日本の飲料、食品メーカー等によるアジア圏企業のIn-out型M&Aが増えました。その後、2012年度末の安倍政権誕生後は、急な円安が進んだことにより、In-out型M&Aの件数が減少傾向に転じました。

 In-outのメリットとは

In-out型M&Aを行うメリットには何があるのでしょうか?ここではそのメリットについて詳しく説明をしていきます。

主なメリットとしては

  • 売り手企業の経営資源を活用することが出来る
  • 日本企業のグローバル化

の2つです。

▼売り手企業の経営資源を活用することが出来る

海外企業が日本企業にはない経営資源を有していることがあります。M&Aを行うことで、その経営資源をより有効的に活用することが出来ます。

例えば、海外企業の技術やノウハウを積極的に取り込むことによって、日本企業だけでは作れない新製品やサービスを開発できる可能性があります。

海外企業とのM&Aが成功し、日本企業と海外企業の協業によって、複雑で優位性と希少性のある商品・サービスを開発できれば、より多くの利益獲得を期待することが出来ます。

特に、技術の獲得という観点では、IT系の企業による海外企業のIn-out型M&Aが増えています。楽天株式会社はその代表例といえます。

2005年には米国のLinkShare社を約464億円で買収しました。これにより楽天は米国のアフィリエイト市場に参入しています。2012年には、カナダのKobo社を約236億円で買収しました。Koboの技術、製品を足がかりに電子書籍市場に参入しています。Koboは日本でも販売され、話題を呼びました。2014年には無料メッセージングアプリViberを運営するキプロスのバイバー・メディア社を約920億円で買収しました。国内ではECをメインに展開する楽天ですが、上記の様に買収によって新たな技術・商品を獲得し、次々と新たな市場に進出しています。

▼日本企業のグローバル化

国内市場の縮小に伴い、海外市場に活路を見出し、企業発展に繋げようとする企業が日本国内では増加しています。このIn-out型M&Aを行うことで海外進出や海外マーケットの開拓をスピーディーに行うことが出来ます。

バブル崩壊後から日本市場は縮小傾向にあります。しかし、中南米や東南アジアなどの新興国ではこれから市場が拡大していくのではと予想されています。このIn-out型M&Aを行うことで、海外にしか存在しないものを日本国内にいち早く持ち込むことが出来るだけではなく、海外にはまだ存在していない日本の商品・サービスを持ち込むことも可能です。品質の高い日本の商品・サービスをいち早く海外の新市場に展開できる場合、他と競合する企業が存在しないことから、より多くの利益を得ることが予想されます。

 In-outのデメリットとは

数多くのメリットがあったIn-outですが、デメリットはどんなことがあるでしょうか?詳しく見ていきましょう。

近年のIn-out型M&Aの特徴としては成約金が非常に高いため、失敗した場合のリスクも非常に大きくなっています。

以前、東芝はアメリカ原発の最大手ウェスチングハウスの買収に失敗し、その影響で経営危機に陥ったことがあります。ハイリスクハイリターンがIn-out型のM&Aの特徴といえるでしょう。

ではなぜIn-out型のM&Aは失敗をしてしまうのでしょうか?ここではその原因について詳しくみていきたいと思います。

主な原因としては

  • 不十分な戦略の策定
  • 買収価格を見誤ってしまう
  • 文化の融合が難しい
  • 買収後の放置

の4つが考えられます。

▼不十分な戦略の策定

In-out型M&Aを検討する際、複数の案件の買収の可否を短期間で判断しなくてはならない場合もあります。その結果、自社の成長戦略やM&Aの整合性が曖昧になったまま、M&Aを進めてしまうことが多くあります。本来は自社の今後の展開や成長戦略を策定した後に、ターゲットである企業の選定を行い、企業へのコンタクトや具体的な交渉へ流れが進みますが、しっかりと自社の展開や成長戦略が出来ないまま、M&Aを進めてしまうと成功の確率は非常に下がってしまいます。

被買収企業の従業員にM&Aの話が漏れてしまうと、従業員は不信感を感じ、会社を離れるという可能性も考えられます。そのために慎重なデューデリジェンス(企業の価格を適正に評価する手続き)を行う必要があります。

▼買収価格を見誤ってしまう

案件の成立を優先してしまうと、見落としがちになるのが、買収の価格です。このIn-out型M&Aでは売手企業の今後の成長を考え、買収価格を決定します。しかし、将来価値に期待しすぎるあまりに、高額な買収金額を支払うケースもあります。

デューデリジェンスで相手の企業の情報をしっかりと集め、売却価格の検討を行い、必要以上に高い買収にはならないようにしましょう。

▼文化の融合が難しい

海外へのM&Aの為、歴史的な背景や企業の文化の違いが異なる為、企業の文化を融合することが難しくなっています。また、海外企業であるため、もちろん日本語以外の言語でコミュニケーションをとることも求められます。お互いの企業の価値や良いところを引き出しあい、より多くの経済効果を出すことを目指すのであれば、M&Aを行う候補先の会社の情報は徹底的に集め、M&Aが最終契約を締結した後に必要なPMI(M&A成立後の事業統合のプロセス)を想定することが大切になります。このPMIを行う際、担当社員の言語力やコミュニケーション力が足りず、うまく組織をまとめられないケースも多くあります。

▼買収後の放置

案件を成立させることばかりに注力していると、M&Aを実施した後の事を見落としてしまいがちです。買収が完了したら、成功というわけではありません。将来的に事業を伸ばせると計画して買っても、それを実行することは、また別の難しさがあります。

M&Aに関する交渉と共に買収後のアクションについても企業同士で確認し考える必要があります。

さらにM&Aを行うことによって何を達成するのか、どのような発展を目指しているのかを具体的に示し、相乗効果で実現するアクションを明確にすることが不可欠といえます。しかし、こういった検討は買収を検討するチームの負担が大きく、対応が遅れがちになるため、特に注意が必要になります。

ここまで説明してきたデメリットと失敗要因ですが、どの様に進めれば、in-out型M&Aを成功に導けるのでしょうか。主な対策として、

  • 明確な事業やM&Aの戦略を立てる
  • 知的財産権の把握
  • ブレークアップフィー条項を事前に確認し決定を行う
  • 従業員の意向に気を付ける

の4つについてご紹介します。

▼明確な事業やM&Aの戦略を立てる

M&Aを行うことが最終目的ではありません。自社の成長戦略の手段として、M&Aは位置づけられます。どの様な企業を買収すべきか、明確な選定基準を設けることが大切になります。また、買収後の企業戦略を明確にし、買収する企業と戦略を共有することも、必須になります。

▼知的財産権の把握

相手企業が持っている知的財産を把握することも大切です。M&Aにおいては知的財産が目的で行われるケースも多くあります。対象企業が活用している知的財産が、実は第三者から借りてきたものである場合もあります。その場合、買収後、その財産を活用した時に、第三者の知的財産権を侵害する可能性も考えられます。そのため、企業全体でどのような知的財産を保持し契約を行っているのかを事前に把握していることが必要になります。

▼ブレークアップフィー条項を事前に確認し決定を行う

M&Aにおけるブレークアップフィーは何らかの事情でM&Aが行われなかった場合の違約金に関する決まりです。

事前にブレークアップフィー条項を決定しておくことで、案件がなくなってしまった場合に買手企業は条項で決められた違約金を受け取ることが出来ます。

買収によるM&Aの場合では違約金の金額は買収金額の1~5%以内に設定されることが多いです。

ブレークアップフィー条項を事前に締結しておくことで、契約が出来なくなった場合でも違約金を受け取ることが出来る為、損害を最初に抑えることが出来ます。

▼従業員の意向に気を付ける

M&Aを実施した際に被買収企業で起こり得るのが、従業員の反対です。海外ではストライキなどが起こることもあります。その国の国民性や親日性などもしっかりと調査する必要があります。

大手企業は労働組合がしっかりと設けられている為、対処法が検討できますが、中小企業のIn-out型M&Aでは、よりトラブルになりやすいです。

M&A最終契約書締結後のPMIのプロセスをしっかりと設計する必要があります。

In-outに関連のある用語

In-outのM&Aですが、専門的な用語が多くてなかなか理解が進まない人も多いのではないでしょうか。最後にIn-outのM&Aに関連する用語を解説します。

M&A

既に何度も出てきているM&Aですが、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略称になります。買収だけでなく、複数の会社が1つになる合併もM&Aの意味に含まれます。

M&Aを行う理由は様々です。「事業の拡大や縮小」、「効率的な資源の利用」なども挙げられます。

新規事業の参入や市場シェアの拡大を目指す場合、膨大な時間やコストがかかります。買い手は、M&Aを活用することで被買収企業の技術、取引先、優秀な人材を確保し、時間やコストを抑えて事業展開を行うことが可能になります。

売り手側もいくつかのメリットが考えられます。その一つが後継者問題です。近年では高齢化の影響があり、経営者が高齢だが、親族や社内に後継者が居ないために、事業を継続できないという問題があります。しかし、M&Aを行うことで、信頼できる優良企業に会社を引き継ぐことが可能となります。

In-in

In-inとは国内企業(in)によって国内企業(in)が合併や買収することを言います。「In-in型M&A」とも呼ばれています。近年では中小企業がこの手法を用いてM&Aを行うことが多くなっています。

In-out型に比べて、国内企業同士の取引である為、相手の顔が見やすく実行しやすい傾向にあります。

まとめ

今回はIn-out型M&Aをご紹介しました。海外企業とM&Aを行うという場合、文化的な違いなど、国内企業同士のM&Aとは異なる問題点が存在しました。In-out型のM&Aを行う際は今後の企業ビジョンを明確にし、文化的な違いも十分に考えながら、買収する企業を選定して頂ければと思います。少しでもIn-out型M&Aを検討されている方のお力添えになれば幸いです。

【M&A用語】In-outとは
近年、インターネットの発展も相まって、新しい技術を開発する海外企業のニュースを目にする機会が増えてきました。それらの技術の獲得、海外進出など、様々な理由で、多くの日本企業が海外企業のM&Aに興味を持っていると思います。そんな方の為に今回はM&Aの方法で、最近増加傾向にあるIn-out、国内企業(In)が海外企業(out)を買収するM&Aについて、その方法やメリット、デメリットをご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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