2018年12月2日 日曜日

【M&A用語】事業譲渡とは

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

「後継者がいないため事業をたたもうか悩んでいる」

「採算が取れない事業から撤退したい」

「本業は売却して、会社名義の不動産だけ残して家賃収入を得たい」

このようにお悩みの経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

この記事では、そんな場合に活用できる「事業譲渡」について、その考え方やメリット・課題、方法や手続きなどについて解説します。

 

事業譲渡とは

「事業譲渡」とは、M&A(会社の合併・買収)の一種で、ある会社が自社の事業を、第三者に有償で譲渡(売却)することです。

事業の全て、または採算が取れない一部の事業のみを譲渡するなど、譲渡する事業の範囲を選ぶことができます。

つまり、会社を丸ごと譲渡するのではなく、選んだ事業に関連する資産等のみ譲渡することができるのです。

対象となるのは、従業員や取引先、店舗や工場などの土地建物、製品在庫・売掛金などの流動資産、契約関係・知的財産権、営業権(のれん)、ノウハウや顧客リストなど、多岐にわたります。

 

事業譲渡の売り手は、譲渡の対象となる会社です。

買い手は、会社の一部または全部の事業を引き継ぎ、対価を会社に支払います。

買い手は、契約に明示されている債務以外は引き継ぐ必要がないため、後で簿外債務などが発覚しても安心です。

 

事業譲渡のメリットとは

売り手・買い手のそれぞれから見た、事業譲渡のメリットを解説します。

 

事業譲渡が売り手にもたらすメリット

まず、売り手側から見た事業譲渡のメリットです。

 

  • A.一部の事業のみ譲渡できる
  • B.手元に残す資産を選べる
  • C.譲渡によって現金が得られる

 

A.一部の事業のみ譲渡できる

一部の事業のみ譲渡できることは、事業譲渡に特有のメリットであり、事業の選択と集中を行って経営を効率化することができます。

 

例えば、下記のような場合に事業譲渡は有効です。

 

  • チェーン店などで、複数店舗のうち1店舗のみ譲渡したい
  • 採算が取れない事業があるが、自力での改善が難しいため、その事業のみ譲渡したい
  • 不採算部門を売却して得た現金を、メインの事業に充てて集中化の体制を整えたい

 

B.手元に残す資産を選べる

事業譲渡においては、事業のうちどこまで承継するかを契約で定めることで、特定の資産や従業員などの手元に残したい資産を選ぶことができます。

例えば、下記のような場合に事業譲渡は有効です。

 

  • 本業の事業は譲渡したいが、会社名義の不動産は残して、不動産賃貸業で収入を得たい
  • 特定の従業員を会社に残したい
  • 会社の法人格は残して、社会貢献活動や新事業などを始めたい

 

C.譲渡によって現金が得られる

これは事業譲渡だけではなくM&A全般に共通のメリットとなりますが、事業譲渡によりまとまった額の現金を得ることができます。

会社の独立性を保ったまま新たな現金を得ることができるため、新事業の資金や経営資金に充てることもできます。

 

事業譲渡が買い手にもたらすメリット

次に、買い手側から見た事業譲渡のメリットを見てみましょう。

 

  • A.継承したい事業や資産を選べる
  • B.簿外債務などの偶発的リスクを継承しなくてもよい
  • C.のれん相当額を5年間償却の損金扱いにできるため節税できる

 

A.継承したい事業や資産を選べる

例えば、売り手の会社全体の経営は思わしくなくても、その中に買い手にとって、多角化経営により相乗効果を見込めそうな事業があったとします。

そうした場合、事業譲渡なら継承したい事業や資産を選べるので、魅力的な事業だけを継承することが可能です。

 

B.簿外債務などの偶発的リスクを継承しなくてもよい

事業譲渡は特定の事業だけを継承する取引行為のため、買い手はデューデリジェンスの時点で把握できなかった簿外債務や偶発的なリスクなどを引き継ぐ必要はありません。

デューデリジェンスとは、M&Aに際して、会社の収益性やリスクなどを調査・査定して、資産価値を評価する手続きのことです。

デューデリジェンスにおいて、帳簿に載っていない簿外債務などの洗い出しには工数やコストがかかります。

事業譲渡ではその工程を省くことができるため、デューデリジェンス自体のコストも抑えることができます。

 

C.のれん相当額を5年間償却の損金扱いにできるため節税できる

事業譲渡における「のれん」とは、事業の買収額と、事業に関連する資産負債(時価)との「差額」のことです。

例えば、設備(純資産)をほとんど持たない事業を、将来性を見込んで高額で買った場合、純資産はほとんどないため、買収額と時価純資産に大きな差額が生じます。

この金額差がのれんです。

事業譲渡では、のれん相当額を5年間償却の損金扱いにすることが可能なため、法人税を節約できます。

 

事業譲渡における課題

事業譲渡のメリットを確認したところで、次は事業譲渡における課題を見ていきましょう。

 

事業譲渡における売り手側の課題

まず、事業譲渡における売り手側の課題です。

 

  • A.負債などの処理について検討する必要がある
  • B.株主総会の特別決議が必要
  • C.競業ができなくなる
  • D.譲渡益に課税される

 

A.負債などの処理について検討する必要がある

事業譲渡において、譲渡する事業や資産を契約で定めることはメリットではありますが、売り手側における負債処理という面においては、この点が逆に課題になることがあります。

合併や株式譲渡なら、負債を含めた会社丸ごとを買い手に継承してもらうことができます。

しかし、事業譲渡においては、買い手側が契約時に負債の継承を拒否すれば、売り手側は負債から解放されません。

事業譲渡後に、債務や不採算事業など負の資産が残る場合は、処理負担が発生します。

残った資産が借入金の場合は、売却で得た現金を充てることも可能ですが、全額を賄うのが困難な場合は、売り手が返済義務を負うことになります。

さらに、買い手側が負債の継承を承諾した場合も、債権者側との交渉手続きなどにコストや手間がかかる可能性もあります。

 

B.株主総会の特別決議が必要

事業譲渡には株主総会の特別決議が必要なため、一般的に大企業では事業譲渡のハードルが少々高くなります。

しかし、小さな同族会社なら、株主総会はほぼ家族会議のようなものです。

そのため、株を持っている家族や親戚などに相談し、株主総会議事録をつけておけば、この点はあまり大きな課題にはならないでしょう。

 

C.競業ができなくなる

売り手は20年間、同一及び隣接する市町村の区域内では同一事業ができないという、会社法上の制約(競業避止義務)を受けます。

 

D.譲渡益に課税される

事業譲渡によって発生する譲渡益には、法人税が課税されます。

事業譲渡の際には、法人税がどれだけ発生するかを念頭におく必要があるでしょう。

 

事業譲渡における買い手側の課題

次に、事業譲渡における買い手側の課題を見てみましょう。

 

  • A.手続きが煩雑で手間がかかる
  • B.人材が流出する危険性がある
  • C.許認可の承継ができない
  • D.消費税がかかる

 

A.手続きが煩雑で手間がかかる

事業譲渡では、従業員や取引先との契約を再度結び直したり、不動産や特許権などの権利・義務における移転手続きなどを個別に行ったりする必要があるため、株式譲渡などよりも手続きは煩雑になり手間がかかります。

 

B.人材が流出する危険性がある

事業譲渡では従業員や取引先との再契約が必要となりますが、相手方の同意が得られるとは限りません。

そのため、優秀な従業員が退職したり、重要な取引先を失ったりといった人材の流出リスクの可能性があります。

事業譲渡に際しては、どの人材を継承するかを確認し、その人材の合意を得られるよう根回ししておく必要があるでしょう。

 

C.許認可の承継ができない

事業譲渡においては、売り手が得た許認可は基本的には承継できないため、買い手は新たに関係各庁から許認可を取り直す必要があります。

許認可の取り直しに時間を要して事業がストップする事態を防ぐために、許認可の承継の有無を事前に必ず調査しておきましょう。

 

D.消費税がかかる

事業譲渡は会社資産の売買となるため、消費税が発生しますので、見積もりをしておいた方がよいでしょう。

 

事業譲渡の方法

事業譲渡におけるメリットと課題を確認したところで、事業譲渡の方法を解説します。

手続きの流れは以下のようになります。

 

経営者面談の実施

まず、買い手を探す必要がありますが、通常はM&Aアドバイザリーを専門とする会社に相談します。

そして、売り手・買い手の経営陣間で面談を持ち、事業譲渡の基本条件や経営方針について意見交換をします。

 

買い手が売り手に意向証明書を交付

話を進めたい場合、対象事業の範囲や概要、資産や負債、買収価額などの基本条件が明示された「意向証明書」を、買い手が売り手に交付します。

 

基本合意書を締結

「意向証明書」の内容に合意したら「基本合意書」を締結します。

 

デューデリジェンスの実施

買い手が専門家に依頼し、会計士による財務調査、弁護士による法務調査などから成る、デューデリジェンスを実施します。

調査内容は、買収価格の算定、財産・契約・簿外債務などのリスクの洗い出し、許認可の継承など多岐にわたります。

 

「事業譲渡契約書」の締結

取締役会の決議を経て「事業譲渡契約書」を締結します。

 

株主総会の特別決議

議決権を持つ株主の過半数が出席した上で、3分の2以上の賛成が必要となります。

反対する株主から株式の買取請求があった場合には、応じる必要があります。

 

引き継ぎや移転手続き

財産・債務・契約・権利等の移転手続きをします。

従業員や取引先などとのの再契約、のれんやノウハウなどの譲渡を行います。

 

事業譲渡に関連のある用語

ここまで事業譲渡について解説してきました。

事業譲渡に関連のある用語としては、「M&A」「株式譲渡」「業務提携」があります。

 

M&A

「M&A」とは、企業の合併・買収を総称する用語のことです。

「合併」とは複数の会社が1つになること、「買収」とはある会社が別の会社の株式を買い取ることです。

広義の意味として、M&Aに事業譲渡や資本業務提携などまで含める場合もあります。

M&Aを受ける側の経営者が賛同しているかによって、友好的なものと敵対的なものに区別されます。

 

株式譲渡

「株式譲渡」とは、対象会社の株主が、保有株式を買い手に譲渡することで、対象会社の経営権が買い手に譲渡される、M&Aの手法の一つです。

個別の契約における移転手続きが不要のため、M&Aの手法においては最も簡便で、そのためよく用いられます。

従業員や取引先、許認可などの会社の強みを丸ごと継承できる一方、偶発的なリスクや簿外債務などの引き受けが必要となるため、デューデリジェンスが必須となります。

 

業務提携

「業務提携」とは、資本の移動を行わずに、特定の分野に限定して、複数の企業が共同で事業を行う、広義のM&Aに入る手法の一つです。

種類としては、共同開発契約やライセンス契約等を結ぶことで他社の技術を活用する「技術提携」、製造委託契約等を結ぶことで生産や製造工程の一部を他社に委託する「生産提携」、販売店契約等を結ぶことで他社の販売資源を活用する「販売提携」等があります。

 

まとめ

事業譲渡は手続きが煩雑になるため、大企業のM&Aは少々面倒なものです。

しかし、同族会社やオーナー会社といった中小企業のM&Aにおいては、契約を結び直す従業員や、移転手続きが必要な資産の数が少ないため、譲渡する事業を選別できるメリットの方が大きく感じられることが多々あります。

事業譲渡におけるメリットと課題を総合的に判断し、会社の状況や求めている利益にかなうような選択をすることが大切です。

【M&A用語】事業譲渡とは
「後継者がいないため事業をたたもうか悩んでいる」
「採算が取れない事業から撤退したい」
「本業は売却して、会社名義の不動産だけ残して家賃収入を得たい」
このようにお悩みの経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、そんな場合に活用できる「事業譲渡」について、その考え方やメリット・課題、方法や手続きなどについて解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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