2019年2月1日 金曜日

【M&A用語】インカムアプローチとは

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

M&Aを行う際のバリュエーションの重要度は言うまでもありません。バリュエーション、すなわち企業価値評価には、M&A対象企業の規模・事業・収益性など、各特徴の理解を進めつつ最適な選択をすることが求められます。この記事では「インカムアプローチ」の解説を軸に、含まれる代表的な手法や関連用語をご紹介します。

 

インカムアプローチとは


インカムアプローチとは、企業買収における企業評価方式の1つです。買収対象企業の「収益性」に基づいて価値評価を行います。代表的なものに、「DCF法」・「収益還元法」があります。

 

【インカムアプローチの特徴と有効性】

収益の将来的な獲得能力や、固有の性質を評価結果に反映しています。将来獲得されるリターンである「利益・キャッシュフロー・配当」を現在価値に還元・評価することで算定します。

 

【用いるときの留意点】

事業計画などの将来的な情報について、恣意的な判断が入り込むリスクがあります。このため、客観的な判断が重要です。また、企業の継続が前提の評価であり、企業の継続性に疑義がある場合は慎重な適用が求められます。

 

【代表的なスキーム】

①DCF法

「ディスカウンテッド・キャッシュフロー(Discounted Cash Flow)」の略語。現在、この方式がポピュラーなものとして用いられています。評価対象企業の将来的なキャッシュフローを、現在価値の合計を基準にして企業の評価額を算定します。動態的な評価手法のため、評価対象資産など将来の収益獲得能力が反映可能です。個別の案件状況に対する各種調整も容易になります。
DCF法では「事業計画」から導き出される「余剰利益」・「有利子負債」・「のれん価値」などを加味した割引率を決めることで、株式価値が計算されます。売却側が「将来的に得られるであろう利益・これまでの実績」を全て売却するという意味合いからも、非常に正確な計算が可能となります。

 

②収益還元法

収益還元法は、過去の決算数値などから将来獲得されうる利益を、適正な資本還元率で除したものを現在価値とし、これをもって評価額とします。注意点としては、一定の成長率を前提とした評価手法のため、将来大きな利益変動が生じる可能性がある企業の評価としては不適切と言えます。

 

③配当還元法

配当還元法は、企業のフローとして「配当金」のみに焦点を絞って企業の価値評価を行う方法です。この手法には、「実際配当還元法」・「標準配当還元法」・「相続税法上の配当還元法」があります。企業自体のストック・フローは考慮されず、受取配当金のみを対象とした少数株主の株式評価としては有効です

 

インカムアプローチのメリットとは


インカムアプローチのメリットには、将来性を加味した企業価値評価があります。また、DCF法はM&A以外の様々な場面で活用可能です。

 

①将来性・成長性を企業価値評価に含めている

相手企業の将来的な価値を見込んでM&Aを実行します。健全な企業は存続することが前提であり、そのキャッシュフローを基準とした算定を行うので、会社の実態を忠実に反映することができます。

 

②キャッシュフローは実態を反映させやすい

「DCF法」にもある「キャッシュフロー」は、売上・利益よりも実態を映し出しやすいです。M&Aにおける将来のキャッシュフローを予測することは困難です。買収対象企業など、他社の場合は殊更に評価が煩雑になります。このため、過去の決算書から将来を予測する方法をとります。当然、過大な利益予想を加味した評価は行いませんが、将来に関する不都合な個別事情が明白な場合は、予測に反映させることもあります。
将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いたものを合算して「事業価値」を算出できます。そして、「事業価値」と既に現在キャッシュである「金融資産」とを合わせたものが「企業価値」となります。なお「企業価値」の算定ができれば「株式価値」を計算できます。「企業価値」から「有利子負債」を減じたものが「株式価値」です。

 

③M&A以外で応用可能

インカムアプローチの中の「DCF法」は、M&A以外の場面でも応用可能です。
・資産の価値評価
・金融機関での貸倒引当金の算定
・事業や設備への投資評価
・減損会計の減損認識
これらの場面で活用できます。様々なケースで用いられるので、ぜひ理解を深めておきたいものです。

 

インカムアプローチのデメリットとは

インカムアプローチのデメリットは、企業の存続が前提・恣意性の排除が困難であることでしょう。

 

①恣意性の排除が困難

インカムアプローチは価値算定に将来の計画を組み込む合理的な手法です。ここには算定する人によって企業価値を自由に操作できる余地が生じます。例えば、事業計画をはじめ、前提となる数値を変えるだけで企業価値が大きく変わるなどの操作が可能となってしまいます。このため、将来の計画を過剰に良いものとすることも可能となり、M&A実行後に利益が得られないリスクが生じてしまいます。なお、相続時の評価は一律に計算する必要があるためインカムアプローチは不適切です。

 

②評価が主観的になりやすい

事業計画による企業の将来性・成長性を反映できるのがインカムアプローチです。一方で、未来の事柄のため、計画検討は客観性を欠いたものになりがちです。

 

③企業が存続しないケースでは活用不可能

インカムアプローチは、企業の存続が前提です。企業の清算など、存続しない場合の活用はできません。企業の継続性に疑問がある場合の適用も困難です。企業を存続させるために合理的な事業計画を組むことが求められます。

 

インカムアプローチに関連のある用語


「インカムアプローチ」は、企業価値評価手法の1つです。ここでは関連する用語をピックアップして解説します。

バリュエーション

バリュエーションは「企業価値評価」のことで、その手法は大きく「インカムアプローチ」・「コストアプローチ」・「マーケットアプローチ」に分類されます。M&A実行において、事前にバリュエーションをしておくことが重要です。なぜなら、あらかじめ売却下限額・買収上限額を定めておけるため、当該金額を超過・交渉難航の場合に、交渉打ち切りの判断を下せるからです。M&A実行におけるバリュエーションに絶対的な方法はありません。各評価の目的に応じた最適なものを選択する必要があります。

【M&A実行時の計算方法】
・インカムアプローチ:「将来獲得」される、利益・キャッシュフロー・配当に着目
・コストアプローチ:「現在保有」している資産に着目
・マーケットアプローチ:売却側・買収側双方が「合意する相場」に着目

【バリュエーションの流れ】

①売却側によるバリュエーション

自社にどれだけの価値があるのかを算定。

②買収側によるバリュエーション(単独価値)

「デューデリジェンス」により不良在庫・時価が低い資産を確認、及び事業系計画の修正など、「減価要因」が生じることがあります。このため、売却側の意図(①)よりも若干低い企業価値に落ち着くことが多いです。

③買収側にとっての価値算定

②のバリュエーションの後、減価・増価各要因の洗い出しとシナジー効果を算定します。最終的な企業価値のバリュエーションを行います。

【企業価値の評価対象】

一般的な評価対象は「事業価値」・「企業価値」・「株式価値」です。M&A実行によりいずれの価値を最大化するかで、その企業の変遷を捉えることができるでしょう。

・事業価値

企業の利益を生み出す活動、「ビジネス=事業」が持つ価値を表します。

・企業価値

企業価値は会社全体の価値を言います。前述の事業価値に、遊休不動産などの「非事業用資産」の価値を加えたものが企業価値です。例えば会社の保養所・余剰資金・遊休資産・資産運用のための株などが非事業用資産となります。

・株式価値

いわゆる上場企業の時価総額を意味します。将来生み出される利益に着目した「事業価値」と「非事業用資産の価値」とを合算したものが企業価値でした。会社全体の価値である「企業価値」から有利子負債の相当額を減じたものが「株式価値」です。
また、対象企業の価値のうち株主に帰属する部分を意味します。

 

コストアプローチ

コストアプローチとは、「現在」保有している「資産」に着目した計算方法です。買収対象企業の「純資産価値」を基にアプローチします。代表的なものに、「簿価純資産法」・「時価純資産法」があります。

【特徴と有効性】

企業の財産価値について、ある一定時点で評価を行います。一般的に、資産をすべて売却して現金化するなど、「企業の存続を前提としない」価値と呼ばれます。

【用いるときの留意点】

上述のとおり、企業の清算に良く用いられます。また、相続評価に用いる際には、税務当局の理論に則った評価が求められます。

【代表的なスキーム】

①簿価純資産法

資産の価値を「簿価」が表すものとします。非常に簡単な方法で「帳簿資産合計」を企業価値とします。自己資本は株式価値に相当し、株式価値を発行済み株式数で割ると一株当たりの株価が算出されます。

②時価純資産法

会社保有の資産の時価から負債を引いた額を企業価値とします。この企業価値から有利子負債を差し引くと「株式価値」になります。

 

マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、売却側・買収側双方が合意する「相場」に着目にした方法です。買収対象企業の比較対象となる企業や業界を基準として企業価値を算出します。「同業の上場企業の財務状況をもとにした、企業の価値決定方法」と言えるでしょう。

【特徴と有効性】

M&A当事者に関係が無い第三者企業の財務状況を参考にしています。このため「客観性が高い」評価基準となり、恣意的な要素が入り込むリスクを低減します。会社売却を行う企業だけではなく、中小企業の企業価値を判断するために用いられるケースもあります。

【用いるときの留意点】

買収対象企業と比較企業との「類似性」を保つことが重要です。なぜなら、自社に有利な価格を求めて比較対象の選定に恣意的な判断が入り込む可能性があることが1つ。そして、完全に合致する事業を行う上場企業を探すことが困難であることがもう1つの理由としてあるからです。

【代表的なスキーム】

①マルチプル法

評価対象企業と同一、もしくは類似する上場企業の株価を基にした算定方法です。類似会社比較法とも呼ばれます。
マルチプルとは「乗数」で、これを評価対象企業に適用します。「類似する」企業は、「規模・業界・成長性・収益性」から判断されます。上場を目標としているか、価値を迅速に算出したいケースで効果的に用いることができます。なお、評価対象企業が非上場の場合は市場株価が存在しません。このため、後述の「市場株価法」に替わる算定法として用いられることが多いです。

②類似取引比較法

買収対象企業と「事業内容」が類似する複数の上場企業を比較対象とします。これら企業のM&A事例の取引額を基に各種倍率を算出し、それと比較して買収価格を算定する評価法です。ただし、財務数値の開示状況からみて、通常、中小企業のM&Aでは利用されません。また、類似取引比較法は慣習に基づく取引であり、多額の買収プレミアムが加味されることが一般的です。買収価格の高騰が起こるからには、評価の適正さ・透明さを見極めることが重要です。

③類似業種比較法

株式の財産価値の評価、中でも相続時の株式評価の場面に用いられ、他での使い道はあまり見られません。「租税法上の公正さ」を保つために有効な手法です。価値算出には、税務当局指定の係数が用いられます。また、「未上場であり取引されていない株式」を評価する手法の1つでもあります。

④市場株価法

マーケットアプローチの代表的な手法の1つ。評価ターゲット企業が上場企業である場合に利用します。算定基準は当該企業自体の「株式市場価格」となります。上場企業の株価評価として一般的な手法です。市場株価は短期的に企業価値と無関係に変動することがありますが、一時的な株価暴落などの影響を排除するためにも一定期間の平均値を評価額としています。また、一定の支配権プレミアムを加算して取引価格を導くのが一般的です。当然ながら、非上場企業は市場で取引される株式が存在しないため、市場株価法を用いることはできません。

 

まとめ

「インカムアプローチ」について解説するとともに、代表的な手法や関連用語についてご紹介しました。
M&Aの実行には、買収対象企業の価値算定のために様々な評価方法が用いられます。M&Aの対象企業の規模・事業・収益性など、各特徴の理解を進めつつ最適な手法を選択することが重要です。

【M&A用語】インカムアプローチとは
M&Aを行う際のバリュエーションの重要度は言うまでもありません。バリュエーション、すなわち企業価値評価には、M&A対象企業の規模・事業・収益性など、各特徴の理解を進めつつ最適な選択をすることが求められます。この記事では「インカムアプローチ」の解説を軸に、含まれる代表的な手法や関連用語をご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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