2019年1月31日 木曜日

【M&A用語】エグゼキューションとは

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

国内外で活発に行われるM&A(合併・吸収)は、売り手側・買い手側双方に様々なメリットをもたらします。国内の「後継者問題」に限定して言えば、後継者が存在しても大手企業の傘下に加わることで「事業拡大を目指す」例も見られるようになりました。

成功すれば売買双方の経営者にとって多大なメリットを生じるM&Aには、様々なフェーズが存在します。この記事では、買い手候補の決定後からクロージングまでの一連の業務を行う「エグゼキューション」について解説します。また、関連する用語についてもまとめました。

 

エグゼキューションとは


エグゼキューションとは、M&Aにおける一連の「管理」や「事務手続き」・「実行」を言います。M&A案件を成功までフォローするエグゼキューションには、膨大な量のデータが必要であり、その業務量も非常に多くなります。

■特徴と有効性

一連の流れの管理と実行を行うエグゼキューションには、複数の段階が存在します。ストラクチャー構築・ドラフト作成・バリュエーション・デューデリジェンス、このそれぞれに専門的知識を持って対応することが求められます。
そのため、会計士・税理士・弁護士を始めとする多くのプロフェッショナルと関わる必要が生じ、数十人を超えるプロジェクトチームとなるケースも見られます。
売却側・買収側双方が納得する着地点に落ち着くためにも、エグゼキューションは非常に重要なプロセスです。

 

■エグゼキューションに求められるもの

エグゼキューションは、各種業務の結果から「できる限り良質のプランを作成」する役割を持ちます。業務遂行には会計や税務を始めとするプロフェッショナルや、マーケティング領域の経験者からのサポートが欠かせません。

 

■エグゼキューションに含まれる主な業務

①ストラクチャー構築:
ストラクチャーとは、事業もしくは企業の構築・構造を指します。M&A実行にあたり、どのスキームで買収を行うかが重要です。
最適なストラクチャーの選択には、事業再編の目的や企業の戦略・税務・財務・手続きなどの検討が欠かせません。M&Aを検討するストラクチャーの選択肢には、株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割・現物出資などがあります。

②契約書など書類・ドラフト作成:
M&Aに関連する契約書には、「秘密保持契約書」「意向表明書」「基本合意書」「株式譲渡契約書」、そして最終条件交渉後の「最終契約書」があります。
但し、M&Aアドバイザーが作成するものはそれぞれのドラフトです。内容の確認と最終的な判断・責任は、売却側・買収側双方の当事者にあります。

③バリュエーション:
価値評価の総称をいいます。企業の資産・利益などの企業価値と比較を行うことで「適正な価値を算出する」ことを意味します。
評価手法は「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の3つに大別され、中小企業のM&Aにおいては「マーケットアプローチ」と「コストアプローチ」を用いることが一般的です。このバリュエーションは、投資を行うか否かの判断、もしくは複数案件から最善で最良な案件を選択する場面で行われます。
なお、買収の対象目的により評価する価値が異なります。事業目的の場合は「事業価値」を、株式目的の場合は「株主価値」を算定します。

④デューデリジェンス:
「デューデリジェンス」は、原語の「Due Diligence」から取られました。日本語で「適正な評価」を指す言葉です。
対象企業の強みや弱み・リスクとなる要因の把握や、M&A実行後の経営に活用します。得られた評価は、M&Aを実行するか否かと買収時の条件を決定する基準として用います。

デューデリジェンスには複数あり、
・弁護士による法務デューデリジェンス
・経営コンサルタントによるビジネスデューデリジェンス
・会計士や税理士による財務デューデリジェンス
などが代表的です。

買収側が回避したいのは、問題のある企業の買収による今後の経営への悪影響です。事業譲渡において問題のある契約を引き継ぐリスクは少ないものの、デューデリジェンスは欠かせません。

 

■デューデリジェンスによるリスク対応

デューデリジェンスの結果、リスクが発見された場合にはどのような対処がなされるでしょうか。対処方法のうち3つを解説します。

①契約中止。締結せず。
治癒・解消が困難であり、なおかつ買収側が許容できないリスクの場合は、株式譲渡契約を締結せずに譲渡の検討を中止します。

②スキーム変更
デューデリジェンスで見つかるリスクには、スキームを変更することでブロック可能なものも存在します。リスクへの対処方法としての選択肢となりえます。

③譲渡価格への反映
譲渡価格への反映とは、発見されたリスク相当額を譲渡価格から減額する方法です。この方法には2つの前提条件が必要です。第一に、当該リスクの金銭的評価が可能である。第二に、当該リスクが顕在化する公算が高いこと、の2点です。なぜなら、リスク顕在化の見込みが低ければ、譲渡価格に反映することに対して売却側の理解を得られないからです。

 

エグゼキューションのメリットとは


後述する「オリジネーション」の次段階が、エグゼキューションです。
オリジネーションにより有効性の高い組み合わせが為されたら、当該段階での条件交渉を充実させていきましょう。M&Aをさらに成功に近づけるよう、以下の点に留意します。

①リスクの洗い出しを徹底的に行う。リスク発現時には回避策をとり、許容範囲に抑える。
②買収側は売り手企業の実態を早期に把握し、高値の支払いを回避する。
③買収側は売り手企業側の面目を保ち、敬意を払いながら交渉に臨む。

買収の意向を表明してから基本合意に至るまでが、第一段階のゴールと言えます。合意に至らず、交渉中断や自然消滅してしまう取引が少なくありません。

 

エグゼキューションの注意点とは

成功に近づけるための留意点を抑えておかなければ、M&Aの交渉自体が消滅・中断するリスクが高まります。エグゼキューションにおいて、特に注意しなければならない点をご紹介します。

まず、買取意向表明後には「秘密保持契約」を締結します。相互の信頼関係が未構築の段階では情報開示も進まなくなるためです。しかし、売却側は内部情報が競合他社に流れてしまうことを防ぐべく、消極的になりがちです。そこで、売却側を慮りながら情報を得て、検討を開始することになります

また、デューデリジェンスの段階では長期化を回避して、売却側企業の価値を毀損から守ります。というのも、当該期間中は新株主の経営方針を予測し、重要な意思決定が困難になります。また、関係者以外にもM&A取引について情報が回れば、組織に不安が走ります。
対象企業の通常業務に支障が生じないよう配慮が求められます

いずれにしても、エグゼキューションの期間中は断続的な交渉がなされることに変わりありません。相手次第でスケジュールの変更が多々発生します。常に冷静な判断をもってリスクを回避しましょう。

 

エグゼキューションに関連のある用語


売買双方の基本合意後に指導するエグゼキューションのフェーズには、様々な関連用語が存在します。以下で解説します。

M&A

「M&A」は、「Mergers(合併)& Acquisitions(吸収)」の略語であり、複数の企業による「合併」や「買収」を指します。ただしこれは「狭義のM&A」であり、広義のM&Aでは「資本参加」「合弁会社設立」も含みます。
企業にとっての重要な経営戦略の1つです。

■M&Aが行われる主な背景

①買収側企業の目的
 ・新規事業立ち上げ
 ・事業拡大もしくは強化
 ・自社の課題への補完

②売却側企業の目的
 ・事業継承(後継者問題の解決)
 ・事業再生(業績不振の脱却)
 ・大手企業傘下での事業拡大

 

■M&Aのメリット

M&Aが適切に実行された場合は、売り手・買い手双方に大きな効果をもたらします。前述の各目的を達成するなど、経営者の課題解決に有効です。また、中堅・中小企業のM&Aの場合、事業譲渡に限って言えばメリットがデメリットを凌ぐといわれています。

 

■M&Aのデメリット

事業売却では、手続きや税負担などのメリット・デメリットを考慮しますが、大型のM&Aにおける事業譲渡は一般的に行われません。契約の引継ぎなどに生じる手続きが煩雑となるためです。

 

■M&Aの主な手法解説

①合併:
2つ以上の企業が契約によって1つの会社に合体します。この際、買われる企業は消滅します。この合併には「吸収合併」と「新設合併」があります。

②買収:
買収の方法は、株式を取得するものと事業を取得するものに2分されます。前者は「株式譲渡」「株式交換」「第三者割当増資」。後者には「事業譲渡」「会社分割」があります。
なお国内の「買収」は往々にして双方の合意の上でなされるため「友好的買収」がほとんどです。

これらを含むM&Aの手法は、採用するものによって会計上・税務上の取り扱いが異なります。目的に応じた手法を選択することで、コストとリスクの問題をコントロールしやすくなります。中小企業のM&Aに特徴的なのは、その9割近くが株式譲渡によって行われることでしょう。残りのほとんどが事業譲渡です。

 

オリジネーション

M&Aにおけるオリジネーションとは、案件の打診・発掘・提案・取得を行うことを意味します。M&Aの案件を「創り出す」=「originate」することから生じました。M&Aの買い手候補が決まってからクロージングまでの業務が前述の「エグゼキューション」です。

■オリジネーションに含まれる主な業務

①対象企業の選定や提案:
まず、売却側・買収側双方のマッチングを行います。例えば、不採算部門の売却を検討する企業と、成長を求めて買収を検討している企業をマッチングするように、売買のニーズに沿った対象を見つけ、引き合わせることを意味します。
そして、クライアントへの提案を行います。この提案(ピッチング)とは、売却側が取るべき戦略を考え、それに合致する買収対象企業を提案します。この提案によって、経営者に案件遂行の決断を促します。

②クライアント企業・業界、及び市場の調査・分析:
提案においてM&Aの必要性を説くために、企業の事業戦略や業界、並びに当該市場の動向を深く理解しておく必要があります。

 

■望ましいマッチングとは

①相互補完的、もしくは戦略上重要な役割を果たす
②企業文化に類似性がある
③M&Aによりシナジー効果が顕在化しやすい
これらの有効性の高い組み合わせを目指しましょう。

 

クロージング

クロージングとは、M&Aにおける経営権の移転を完了させる最終的な手続きを言います。つまり、最終契約書に基づくM&A取引が実行され、各種譲渡の引渡し手続きと譲渡代金の支払い手続きが行われます。これによって経営権の移転が完了することが、M&Aにおけるクロージングです。

■クロージングの前提条件

売り手側の譲渡対象物の引渡しと、買い手側の対価の決済が行われるのが通常ですが、スキームごとに内容は異なります。以下、スキームごとに解説します。

①事業譲渡:
資産・負債・権利義務については個別に移管手続きを行います。手続きは第三者の承認を得ながら進めていく必要があり、一定の日付を持ってクロージングするものではありません。

②株式譲渡:
株券の引渡しと対価の支払いによって、移転が完了します。

③合併や株式交換:
当事者間の組織統合の完了と、それぞれの新株交付をもって完了します。

④第三者割当増資:
新株払込みの実行により完了します。

 

■クロージングで行われること

クロージング日にM&A当事者間で行われるのは、必要書類の確認・書類の有効性並びに適格性の確認、そして書類の署名押印の確認などです。その後、株式譲渡の手続きと対価となる譲渡代金の支払いを行います。手続きの進捗状況によっては、最終契約日とクロージングの日付が同時となります。

 

■クロージング後の処理

M&Aにおけるクロージングは経営権の移転が完了することです。M&Aはクロージングで終了とはなりません。M&Aの契約成立から、実際の経営・事業の引継ぎが始まります。

 

まとめ

ここまで、「エグゼキューション」とその関連用語について解説しました。
前段階のオリジネーションを受けて、交渉段階に入りますが、有効性の高いマッチング相手ですから、エグゼキューションの不備を無くすことが重要です。事前に十分な検討を行い専門家のサポートを受けながら円滑な交渉を進めていきましょう。

 

【M&A用語】エグゼキューションとは
国内外で活発に行われるM&A(合併・吸収)は、売り手側・買い手側双方に様々なメリットをもたらします。国内の「後継者問題」に限定して言えば、後継者が存在しても大手企業の傘下に加わることで「事業拡大を目指す」例も見られるようになりました。
成功すれば売買双方の経営者にとって多大なメリットを生じるM&Aには、様々なフェーズが存在します。この記事では、買い手候補の決定後からクロージングまでの一連の業務を行う「エグゼキューション」について解説します。また、関連する用語についてもまとめました。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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