2019年3月29日 金曜日

【M&A用語】エスクローとは

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

M&A(買収・合併)の実行には様々なフェーズが存在します。そして、それぞれに外部関係者・関係機関が存在します。
今回は「エスクロー」の解説をメインに、M&A取引の各段階で押さえたいポイントや関連用語についてまとめました。

 

エスクローとは


「エスクロー(escrow)」とは商取引の際、売却側・買収側の間に金融機関などの第三者機関(エスクロー・エージェント)を介入させることを言います。いわば譲渡金額の決済における「取引の安全性を確保する仲介サービス」です。

介入する第三者は「停止条件付捺印証書」を交付、専用のエスクロー勘定が開設されます。決済資金の一部を寄託され、特定の条件が満たされると条件付きで譲渡金額の決済を行います。
つまり、買収側から入金された譲渡代金は、一旦エスクロー勘定に保管されます。そして、売却側・買収側双方の間で条件合意となれば、保管されていた譲渡金額が売却側に支払われるのです。

但し、買収側はエスクローエージェントにお金を預けています。このため、契約内容に相違があればM&Aを決裂させることができます。

 

【国内現行法とエスクローについて】

エスクローは1974年にアメリカで生まれた方法です。不動産取引における決算保全を目的とし、州政府の法律による取り決めがなされました。
一方で日本における立法上のエスクロー制度はありません。自由にその名称を用いることができます。

国内でアメリカ式のエスクローに最も近いのは「信託」ですが、これでは信託会社、もしくは信託銀行に限定されてしまいます。このため、取引における実務では手続きが簡略な銀行口座を利用したエスクローサービスを採り入れるケースがあります。

 

【日本国内で行われるエスクロー】

国内で行われる2つのスキームをご紹介します。

①信託契約を用いるエスクロー:
受託者(買収側)が、対象の譲渡代金を「信託財産」として受託者(エスクロー・エージェント)に預託します。
エスクロー期間中は受託者により信託財産が管理・運用されます。
その後、特定の条件が充足されたことを確認した場合に、受託者から受益者(売却側)に譲渡代金が引き渡されます。

②銀行口座を用いたエスクロー:
前項の「信託」を用いないエスクローのスキームもあります。
まず、「エスクロー用の銀行口座」を開設します。口座名義人は売却主・買収主・エスクローエージェントのいずれかとします。
次に、買収側が「エスクロー用口座」に譲渡代金を送金します。エスクロー期間中、エスクローエージェントにより資金(譲渡代金)が管理・運用されます。
その後、特定の条件が充足されたことを確認した場合に、エスクロー・エージェントから売却側に譲渡代金が引き渡されます。

 

エスクローのメリットとは


エスクローのメリットは主に3つあります。

まず、買収側の信用保持に大きな効果を発揮します
というのも、買収側から入金された譲渡代金は、一旦、第三者のエスクロー勘定に保管されます。そして、万が一売却側に補償責任があることが確定した場合には、当該保証責任に対応する金額が買収側に払い出されます。
責任対象以外の金額については、一定期間の経過後に「譲渡代金の残高」として売却側に支払われるため、買収側の信用が問題にはならないのです。

そして、契約内容に相違があればM&Aを決裂させることも可能です。

さらに、譲渡代金がエスクロー勘定に預けられているので、売却側にも確実に支払われる安心感が生まれます。取引への信用は大事なポイントです。

 

以下、スキームごとのメリットをご紹介します。

①信託契約を用いた場合:
信託契約では「受託者の財産」ではなくなるので、受託者(エスクロー・エージェント)の倒産リスクからの隔離に効果的です。

②銀行口座を用いた場合:
信託契約と比べ、手続きの簡略化が図れます。エスクローの準備や実行がスピーディーに行えるので、コスト削減も期待できます。

 

エスクローのデメリットとは


譲渡金額の決済など取引の安全性を確保する仲介サービスですから、高い信用性が求められます。そこには安全性という「取引の保証」を提供する対価として、手数料が発生します。
ビジネスである以上、介入する第三者「エスクロー・エージェント」はこの手数料で利益を上げています。

このため、サービスを検討する際には、「エスクロー・エージェント自体の破産」というリスクも念頭に置いて考えましょう。

以下、スキームごとのデメリットをご紹介します。

①信託契約を用いた場合:
手続きが煩雑で、契約書が長文になることが多いです。事前の説明義務や法廷記載事項にかなりのウェイトがあるので、取引の迅速性が損なわれます

②銀行口座を用いた場合:
信託契約とは異なり「倒産隔離」が不十分です。差押対象者は、当該口座の名義と利用口座の種類によって異なりますが、銀行口座への「質権設定」を個別的に設定すればリスクヘッジになります。

 

エスクローに関連のある用語

ここまで「エスクロー」について解説してきました。エスクローには上述の活用スキームの他にも様々な関連用語が存在します。
以下、「M&A」・「エスクロー・エージェント」・「クロージング」について解説します。

 

M&A

M&Aは企業の合併と買収を指します。英語の「Merger(合併)&acquisition(吸収)」の略です。株式譲渡・事業譲渡の他、経営権の移転を伴わない資本提携・営業権譲渡も広義的に含まれます。シンプルな概念として、経営権の移転を伴う経済行為と言えるでしょう。

 

【M&Aの目的】

複数企業がお互いの利益のために行う「事業の拡大・縮小」が主たる目的です。
M&Aの各手法によりメリット・デメリットがありますが、いずれにおいても当該企業間の資源を効率的に利用することに変わりありません。
①譲渡(売却)側の目的:事業承継・企業再生・エグジット・事業の選択など。
②譲受(買収)側の目的:新規事業獲得・既存事業の規模拡大・人材及び技術の確保など。
このようにM&Aは、企業・組織の課題解決の手段として捉えられ始めています。

 

【M&Aの市場動向】

国内M&A市場は一時期、会社法の施行まえの水準まで落ち込みました。主にリーマンショックや東日本大震災の影響があります。
しかし2011年以降は市場規模に拡大傾向が見られます。M&Aの件数増加に伴い、取引総額も急騰しています。
近年の市場の傾向として、売却側企業・買収側企業双方にM&Aを増加させる要素があります。堅調な景気の中で、少子高齢化に伴う労働力人口の減少・業績の拡大志向の増大・人材不足の深刻化の解決策として注目されているのです。
引き続きM&Aの市場規模は拡大すると思われます。中小企業のM&Aや、IN-OUT型など海外進出を目的とするM&Aの増加が見込まれるからです。

 

【M&A増加の背景】

このように、M&Aの市場規模は拡大傾向にあります。拡大の4つの背景をご紹介します。
①経済のグローバリゼーション
②事業承継問題の表出
③買い手の増加
④支援制度の充実と支援機関の増加

 

エスクロー・エージェント

「エスクロー・エージェント」とは商取引の際、売却側・買収側の間に介入する中立的な第三者機関を言います。主に金融機関がその役割を担い、譲渡金額の決済など「取引の安全性」を確保します。

 

【エスクロー・エージェントの働き】

M&A取引では、相手方に対して譲渡代金や対象物を直接渡すことはしません。暫定的に代金を預託されるのがエスクロー・エージェントです。つまり、M&Aにおけるエスクロー・エージェントは、中立的な第三者として譲渡代金の決済を行います

また、基本的にエスクローには、条件譲受までの期間において「当事者が独断で金銭・財産を処分できない」という機能があります。取引の目的を担保するためにも、中立的な第三者「エスクロー・エージェント」の存在は重要です。

エスクロー・エージェントは、次のようなステップで動いています。
①買収側は譲渡代金をエスクロー・エージェントに預ける。
②エスクロー・エージェントは入金を確認し、エスクロー勘定に保管。
③売却・買収双方で条件合意となれば、売却側に譲渡代金を支払う。

 

クロージング

「クロージング」とは、M&Aにおいて最終契約書に基づく取引が実行され、M&Aの対象となる物の権利の移転が完了することを言います。売却側から買収側への権利の移転は、株式譲渡や事業譲渡などの「引渡し」と、「譲渡代金の支払い」の手続きにより完了となります。
手続きには法律要素が多く含まれるため、M&Aアドバイザーの助言を得ながら進めることが一般的です。

 

【M&Aのクロージングの条件】

M&A取引が実行される前提となる、必要な一定の条件を「クロージングの前提条件」と言います。
この前提条件が充足されないかぎりM&A取引を実行しない、もしくはクロージングの前提条件を変更することになります。前提条件を充足しなかった場合どのような対応が必要か、柔軟・慎重な検討が求められます。

前提条件を充足できない相手方への補償請求・損害賠償請求を行わないにせよ、一度クロージングを中止すると、その再開は容易ではありません。既に最終契約書を完成させM&Aのクロージングに至るまでに、長期間の交渉・調査を行っています。

このため、クロージングの中止の他に、以下の対応策が考えられます。
①M&A実行後に条件を充足させるとし、一旦前提条件を放棄。その上でM&Aを実行する。
②前提条件の充足を待ち、再度M&A実行についての取り決めを行う。

 

【条件の設定】

一般的に、クロージングの条件は「実行の前提条件」として最終契約書の条項に盛り込まれます。当該条項には許認可・訴訟・環境問題などによる場合、つまり一定条件を充足しない場合を想定した「停止条件」を規定することがあります
なお、前提条件は具体的・客観的に定めることがポイントです。以下に一般的な前提条件を挙げます。

一般的なクロージングの前提条件の例
①M&A取引における一定事項に対する表明・保証事項が正確である。
②クロージング日までの誓約事項が履行されている。
③主要取引先企業からの取引継続の同意を得ている。
④主要役職員による同意を得ている。

 

【M&Aのクロージング手続き】

M&A取引のクロージングに至るには、クロージングの前提条件を満たしていなければなりません。このため、最終契約日からクロージングまで一定期間を開けることも多いです。また、手続きのうち1つでも不備があればM&Aの有効性に疑問が生じかねません。
ただし、最終契約日までにクロージングに必要な手続きを完了させている、もしくは最終契約日後に必要な手続きを適正に完結させることを前提に、契約日と同時にクロージングを行うこともあります。
いずれにせよ、慎重な対応が求められます。以下、スキームごとに解説しましょう。

 

①株式譲渡:
売却側からのクロージング書類と株券の引渡し、買収側からの対価の支払いにより完了します。M&Aスキームの中でも最も多く行われ、そのメリットも大きいのが通常です。

②事業譲渡:
資産・負債・権利義務の移管、技術譲渡、財産登記、従業員の転籍手続きなどを行います。
中小企業の買収に多く見られるスキームです。取締役会の承認と株主総会決議が必要であり、実行に至るまで多くの課題があります。株主による反対も想定されるため、中小企業のように決議しやすいケースで多く採用されるのです。

③第三者割当増資:
新たに発行された新株に対する払込みと、売却側からの新株交付の実行で完了します。
株式を公開している会社であれば、取締役会の決議でもって実行可能です。ただし、特別決議を要する場合もあります。無償付与・妥当と判断される価格より10%以上低い株式価格の場合です。
なお、株式非公開の会社では株主総会決議が必須です。

④合併・分割・株式交換:
当事会社間の組織統合の完了とそれぞれの新株交付により完了します。
一般的にM&Aスキームの中でも、契約締結からクロージング日まで期間を要します。
というのも、合併・分割によるM&Aは、株主総会による決議・債権者保護手続きが必要なので準備に時間がかかるのです。

 

【クロージング日に行われること】

M&A当事者間で、必要書類・書類の有効性や適格性の確認、書類の署名押印の確認などを行います。
その後、株式譲渡の手続きと譲渡代金の支払いがなされます。手続きの進捗状況により、最終契約日とクロージングの日付が同日になります。

 

まとめ

M&Aの用語のひとつ「エスクロー」について解説するとともに、その関連用語もご紹介しましたが、いかがでしたか。
クロージングというM&A取引の最終フェーズで重要な役割を果たすのがエスクローです。
M&Aの契約成立は実際の経営・事業の引継ぎ開始でもありますから、運用の際は慎重・柔軟な検討を重ねていきましょう。

【M&A用語】エスクローとは
M&A(買収・合併)の実行には様々なフェーズが存在します。そして、それぞれに外部関係者・関係機関が存在します。
今回は「エスクロー」の解説をメインに、M&A取引の各段階で押さえたいポイントや関連用語についてまとめました。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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