2019年2月2日 土曜日

【M&A用語】アーニング・マルチプル・レシオとは

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

M&A(買収・合併)を行う際、買収対象企業とその企業価値の算定のために様々な評価方法が用いられます。

現在、M&Aは効率的な企業発展のための手段の一つとして認識されるようになっています。とりわけ、企業売却を行う売り手側の企業にとっては、芳しくない経営状態を打開していくための手段となります。
ただし、M&Aを行うには様々な留意点があります。そのうちの一つが、買収対象企業に対する適正な価値の決定です。
企業価値は、買い手・売り手双方の交渉の末に決定されていくものですが、時として、企業価値決定のプロセスが主観的になりすぎ恣意などが入り込む恐れがあります。これらのリスクを排除するためにも、様々な評価手法が役立ちます。

M&Aの対象企業の規模・事業の特徴を考慮して、どの評価方法を採用するのかを冷静に判断するためにも、各手法への理解が求められます。今回ご紹介する「アーニング・マルチプル・レシオ」も覚えておきたい用語の一つです。

この記事では「アーニング・マルチプル・レシオ」についてご紹介するとともに、アプローチ別の企業価値評価方法や関連する用語について解説します。

 

アーニング・マルチプル・レシオとは


「アーニング・マルチプル・レシオ」は、英語で”Earning Multiple Ratio”とつづります。「収益倍数比率」と直訳され、同種業界における企業買収価格と被買収企業の税引後純利益とを検証化した、一般的な比率や傾向値を言います。
簡潔に表現するならば「過去の取引事例から判断する業界における指標・相場」と言えます。
これは、新たにM&Aを行う上で重要な数値です。その業界におけるM&Aの適正価格や相場を知りえる指標となるからです。

 

マーケットアプローチによる企業価値評価

「マーケットアプローチ」とは、ターゲットとなる企業と同業他社(上場企業に限る)の時価総額を比較し、または類似事例に着目した評価手法です。評価対象企業の決算書などの数値に係数を乗じて算出します。
簡潔に表現すると、「同業の上場企業の財務状況をもとに、企業の価値を決定する手法」と言えます。

【特徴と有効性】
買収・合併に関係がない第三者企業の財務状況を参考にしているため、買い手・売り手双方の交渉の末に決定される企業価値に、恣意的な要素が入り込むことを防止します。「客観性の高い」評価基準となり、会社売却を行う企業のみならず、中小企業の企業価値を判断するために用いられる場面もあります。

【用いる時の留意点】
主観的な評価が入らないようにし、買収ターゲットとなる企業と比較される企業との「類似性を保つ」ことが求められます
理由は二つあります。
第一に、そもそも完全に同じ事業を行っている上場企業を探すことが困難なケースがあるということ。ある一面において同様の事業であっても、多方面からの分析では事業内容に若干なりとも差異が生じることがあるからです。
第二に、企業価値を高く、もしくは安く算定しようとして、比較対象の選定に恣意的な判断が入り込む可能性があるからです。

【その他の手法】
■①コストアプローチ
純資産価値を基にアプローチします。買収対象企業の貸借対照表の「純資産」に基づいて、企業価値を評価する手法です。簿価ベースの純資産から算出する「簿価純資産法」・資産と負債を時価評価したうえでの純資産を基に算出する「時価純資産法」などがあります。

■②インカムアプローチ
買収対象企業の収益性からアプローチします。将来の利益予想・キャッシュフローの予想に基づいて価値評価を行う手法です。代表的なものに「DCF法」・「収益還元法」があります


【インカムアプローチの特徴】
収益の将来的な獲得能力や固有の性質を評価結果に反映しています。

【用いるときの留意点】
事業計画などの将来的な情報について、恣意的な判断が入りこむリスクがあります。客観劇な判断が求められます。また、企業の継続を前提とする評価のため、企業の継続性に疑義がある場合には慎重に適用することが求められます。

 

マルチプル法(類似会社比較法)

マルチプル法とは、「マーケットアプローチ」の代表的な手法の一つで、マーケットでついた株価を基に、類似企業にあたる他上場企業の企業価値を算定する方法です。
M&Aの際に、事業内容や規模が類似した企業を複数比較する方法として用いられます。上場を目標に置いている、もしくは価値を迅速に算出したいケースで効果的な手法です。
類似企業の選択には、業種・業態が似ていることが必要です。なぜなら、マルチプル法の主旨にある成長率とリスクが似るようにするためには、業種・業態との類似性が関係するからです。
評価対象企業が非上場の場合は市場株価が存在しないため、市場株価法に替わる算定法として用いられることが少なくありません。

 

市場株価法

「市場株価法」と、マルチプル法と同じく「マーケットアプローチ」の代表的な手法の一つで、評価ターゲットとなる企業が上場会社である場合に用いられます。当該企業自体の株式の市場価格が、算定基準となります。市場株価の分析を行うことで株主価値を評価する方法であり、上場企業の株価評価では一般的に使用されています。
この市場株価は、短期的に企業価値と無関係に変動することがあります。一時的な株価暴落などによる市場の影響を排除するためにも、一定期間の平均値を評価額とします。また、M&Aによる経営改善効果や経営権に対する評価は考慮されていないため、一定の支配権プレミアムを加算して取引価格を導くことが一般的です。
無論、非上場企業の場合は市場で取引される株式が存在しないため、市場株価法を用いることはできません。

 

類似取引比較法

「類似取引比較法」は、ターゲットとなる企業と「事業内容が類似」する複数の(上場企業の)M&Aの事例の取引額を基に各種倍率を算出し、それと比較して買収価格を算定する評価法です。
・同じ業界内において多数のM&Aの実績がある
・買収される企業が上場企業で、財務の数値を把握できる
・類似のM&A取引での取引価格、その際に用いられた何らかの指標が発表されている
このようなケースに行われます。

一方で、評価の適正性に透明さが維持できているか、取引には留意すべき点があります。これらの慣習に基づく取引には多額の買収プレミアムが加味されることが少なくありません。買収価格の高騰が起こる以上、評価の適正さ・透明さを見極める必要があります。
財務数値の開示状況からして、中小企業のM&Aで利用されることは、ほぼありません。

 

類似業種比較法

「類似業種比較法」とは自らの会社と、他の類似の業種・規模の平均的な会社とを比較して評価を行う評価方法です。株式の財産価値の評価法として用いられます。
また、この方式は、「未上場かつ取引されていない株式の評価方法」の一つとされます。このタイプの株式の場合、売買されることが稀であり客観的な価格をつけることが困難です。「租税法上の公正さ」を保つために有効な手法です。価値算出に用いる係数は税務当局指定のものが利用され、相続時の株式評価の場面以外の使い道はあまり見られません。

 

アーニング・マルチプル・レシオに関連のある用語


第2項において、マーケットアプローチ方式に見る「企業価値評価方法」をご紹介しました。ここで、「アーニング・マルチプル・レシオ」について振り返ってみましょう。

「アーニング・マルチプル・レシオ」は「収益倍数比率」と直訳され、同種業界における企業買収価格と被買収企業の税引後純利益とを検証化した、一般的な比率や傾向値を言います。簡潔に表現するならば「過去の取引事例から判断する業界における指標・相場」と言えます。

これは、新たにM&Aを行う上で重要な数値です。その業界における「M&Aの適正価格や相場を知りえる指標」となるからです。
それでは、以下で「M&A」と「適正な評価」・「価値」について解説します。

 

M&A

【M&Aとは】
「M&A」とは、「Mergers and Acquisitions」の略語であり、企業の合併(Merger)と買収(Acquisition)を意味します。具体的には、2社以上の企業・組織の合併や吸収、経営権を握るために行われる資本による買収を指します。株式投資家にとっては、株式の売買の機会が生まれるため利益を得るメリットがあります。また、一般的には合併・買収の他に、特定事業の譲渡・緩やかな資本業務提携等も含めた広義の企業提携の総称としても用いられます。
このように、M&Aが行われる背景には、事業拡大や事業譲渡など様々な目的があります

【M&Aの動向】
現在、国内企業の国内外の企業に対するM&Aの件数が活発化しています。2011年以降の増加傾向には、企業業績の回復が背景にあると言われています。巨額資金を元手にした海外へのマーケット拡大や成長機会を求めて、金融環境の緩和を背景に幅広い業種が海外のM&Aに期待を高めています。

 

デューデリジェンス

「デューデリジェンス」とは日本語で「適正な評価」を意味し、原語の「Due Diligence」から取られました。買収対象企業の事業内容や経営実態の詳細な調査・監査を行うことを指します。デューデリジェンスを行う目的は、
・対象企業の強みを把握
・対象企業の弱みやリスクとなる要因を把握
・M&Aを行った後の経営に役立てる
これらと共に、M&Aを行うか否かの判断と、買収するにあたっての条件を決めることにあります。

売却側は、必要な書類やデータを入念に準備して事業譲渡に望む必要があります。これらの情報が不十分であれば、信用問題から契約自体が破綻することも起こりえます。適正な評価に向けて留意しておきましょう。

【デューデリジェンスの種類】
買収を行う側は、問題のある企業を買収してしまうことにより今後の経営に悪影響を及ぼすことを避けたいと考えています。また、事業譲渡では問題のある契約を引き継ぐリスクは低いものの、デューデリジェンスは欠かせないプロセスです。
デューデリジェンスにはいくつか種類があり、
・弁護士による法務デューデリジェンス
・会計士や税理士による財務デューデリジェンス
・経営コンサルタントによるビジネスデューデリジェンス
などがあります。

 

バリュエーション

「バリュエーション」は、価値評価の総称を指し、企業の資産や利益などの企業価値と比較を行うことで「適正な株価を算出する」ことを意味します。
このバリュエーションは、投資を行うか否かの判断や、複数案件から最善で最良な案件を選択するために行われます。
通常、中小企業のM&Aにおいては、マーケットアプローチ・コストアプローチの方法が用いられます。マーケットアプローチには、既出の2.1~2.4の手法が該当します。
また、買収の対象目的により評価する価値が異なります。買収が事業目的の場合は「事業価値」、株式目的の場合は「株主価値」を算定します。

【事業価値】
事業価値とは、企業の事業活動から創出される価値をいいます。この計算方法は複数あります。基準とする価格は、買収側から提示するケース・売却側から提示するケース、どちらもありますが、いずれも事業譲渡の専門家による計算が必要です。
また、対照的な言葉に「非事業価値」があります。こちらは企業の事業活動とは無関係である「資産」から創出される価値を表します。現金や資金運用のための株などが該当します。

【株主価値】
いわゆる上場企業の時価総額です。企業価値から負債価値を引いたものが株主価値となります。将来の収益性も加味された企業全体の価値から、借入金などの負債分の価値を引くことで試算します。

 

まとめ

以上、表題の「アーニング・マルチプル・レシオ」についてご紹介するとともに、アプローチ別の企業価値評価方法や関連する用語について解説しました。
M&A(買収・合併)を行う際、買収対象企業とその企業価値の算定のために様々な評価方法が用いられます。その中で、「アーニング・マルチプル・レシオ」は「過去の取引事例から判断する業界における指標・相場」と言えます。また、その業界におけるM&Aの適正価格や相場を知りえる指標となるため、新たにM&Aを行う上で重要な数値です。
M&Aの対象企業の規模・事業の特徴を用いてどの評価方法を採用するのか、適正な判断を冷静に行うためにも各手法への理解が求められます。

 

【M&A用語】アーニング・マルチプル・レシオとは
M&A(買収・合併)を行う際、買収対象企業とその企業価値の算定のために様々な評価方法が用いられます。

現在、M&Aは効率的な企業発展のための手段の一つとして認識されるようになっています。とりわけ、企業売却を行う売り手側の企業にとっては、芳しくない経営状態を打開していくための手段となります。
ただし、M&Aを行うには様々な留意点があります。そのうちの一つが、買収対象企業に対する適正な価値の決定です。
企業価値は、買い手・売り手双方の交渉の末に決定されていくものですが、時として、企業価値決定のプロセスが主観的になりすぎ恣意などが入り込む恐れがあります。これらのリスクを排除するためにも、様々な評価手法が役立ちます。

M&Aの対象企業の規模・事業の特徴を考慮して、どの評価方法を採用するのかを冷静に判断するためにも、各手法への理解が求められます。今回ご紹介する「アーニング・マルチプル・レシオ」も覚えておきたい用語の一つです。

この記事では「アーニング・マルチプル・レシオ」についてご紹介するとともに、アプローチ別の企業価値評価方法や関連する用語について解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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