2019年3月27日 水曜日

【M&A用語】クロスボーダーとは

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

国内経済市場の縮小と少子高齢化に伴う労働力人口の減少が続く中、組織が生き残るために海外進出を検討している企業経営者も多いことと思います。また、企業の成長には、企業利益の向上や改善の他、経営層に対する株主からの期待が込められています。

近年、海外進出による企業成長を目的に、クロスボーダーM&Aが活発化しています。
海外企業を買収すれば、海外進出ならびに海外市場の開拓をスピーディーに行うことができます。

今回は、企業の成長戦略の有効な手段の1つ「クロスボーダー」について解説するとともに、実行における留意点や関連用語もご紹介します。

 

クロスボーダーとは


「クロスボーダー」は、海外企業とのM&A(買収・合併)を言います。

 

【クロスボーダーM&Aの市場傾向】

クロスボーダーM&Aの件数は増加傾向にあり、現在では日本企業が関わるM&A案件のうち、3件に1件がクロスボーダーM&Aとなっています。

なお、クロスボーダーM&Aの中でも特徴的なのが、In-Out案件の増加す。1980年代末のバブル期にピークを迎えた後も、国内市場の縮小傾向と新興国をはじめとする海外市場の拡大傾向から、成長戦略の一つとしてM&Aが取り入れられています。
この戦略的なM&Aに関するノウハウや情報が周知されてきたことも、増加を後押ししているのです。
一方のOut-In案件はわずかに減少が見られます。しかし、成約金額が急激に増加していることから、経営不振に陥る国内企業が増加した場合にはOut-In案件が増加すると考えられます。

 

【種類別:クロスボーダーM&Aを行う目的】

日本企業のグローバリゼーション(In-Out):
上述の「企業の成長戦略」の一つとして、海外市場の開拓を目的に行われます。クロスボーダーM&Aによる迅速な海外進出と海外市場開拓に期待が集まります。

海外投資ファンドによる日本企業の買収(Out-In):
海外投資ファンドが経営不振に陥る日本企業を買収し、大規模な株式の売却益を取得するために行われます。経営難にあえぐ企業の経営を回復させることで、利益を得るのです。

 

【クロスボーダーM&Aのメリット】

経済活動のグローバル化により増加しているクロスボーダーM&Aですが、具体的には、海外進出により新規市場を開拓できるメリットがあります。新規市場には競合他社がいないため、大きな利益を得られることでしょう

また、海外市場特有のものを国内に持ち込めますし、その逆もできます。中でも新製品の開発がメリットになるでしょう。海外企業の技術・ノウハウを取り込みながら、国内に存在しなかった新製品を開発できる可能性があります。国内外の技術が融合した複雑な工程から制作されるため、その製品は希少性が高まり、より多くの利益取得が考えられます。

 

【クロスボーダーM&Aの一連のフロー】

クロスボーダーM&Aも日本国内のM&Aと同様のプロセスで進めていきます。

①事前準備:
・M&A取引の目的の明確化
・対象企業の検討
・M&Aアドバイザーとの契約
・スキーム策定と買収対象企業の決定

相手国や案件により、意向表明書提示前であっても面談や会社訪問が認められるケースもあります。

②具体的な交渉手続き:
・守秘義務契約締結
・初期的情報の入手
・意向表明書の提示
・基本合意書の締結

国内と異なり、クロスボーダーM&Aにおける交渉ではロジックが重視される傾向にあります。事実やデータを基に議論が進むことが少なくありません。

③買収対象企業の調査:
・デューデリジェンス(企業監査)の実施

④M&A取引の最終局面:
・最終条件の交渉
・法律に則った最終契約締結
・クロージング
・PMI

 

【クロスボーダーM&A特有のスキーム】

①LBO:
買収側の自己資金が少額でも大型M&Aを実行できる手法で、海外企業のM&Aでよく用いられます。
「レバレッジバイアウト(Leveraged buy-out)」の略で、買収側が少ない自己資金と金融機関からの融資で得たローンを組み合わせることで、買収資金を調達する方法です。ローンを組む際の担保は、売却側が保有する財産(事業など)が対象になります。

少額の自己資金で実行できる一方、万が一、LBOの実行後に業績が落ちた場合には、莫大な借金を抱えるリスクがあります。

②三角合併:
親会社が子会社を通じて対象企業を吸収合併しようとする際、親会社が交付した株式をもって決済することを認める手法です。2007年5月までは、子会社の株式による決済しか認められていませんでした。

まず、海外企業が日本に子会社を設立します。そして、日本に設立された子会社は、親会社である海外企業の株式を取得します。その後、親会社が発行した株式を、買収対象企業である日本国内の企業の株主に交付することで合併を行います

三角合併を行う基本は「株式交換」です。
通常、M&Aを実行するには莫大な資金、つまり多額の現金が必要です。しかし、「三角合併」における決済はキャッシュ以外にも多様な決済手段があるため、積極的に用いられるのです。

 

クロスボーダーM&Aの例


ここで、クロスボーダーM&Aの例をご紹介します。

【In-Out型M&A】
いずれも人材や販路獲得の他、対象企業が保有する技術を取り入れることで更なる成長を目指しています。欧米企業が多くみられます。

・「アサヒグループ」→「アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)」のビール事業
・「株式会社セブン&アイホールディング」→「スノコLP社(アメリカ)」の子会社
・「三菱東京UFJ銀行」→「アユタヤ銀行(タイ)」

【Out-In型M&A】
中国の買い手が高額買収をかけることが多いです。

・電子機器製造受託メーカー「鴻海(台湾)」→「シャープ株式会社」
・半導体組立「ASMPT社(シンガポール)」→半導体製造装置などの製造販売「東京エレクトロン株式会社」

 

クロスボーダーの注意点


一口に「クロスボーダーM&A」といっても、交渉スタイルや法規制によって、地域ごと・国ごとに大きな違いがあります。文化的・歴史的背景に因るところが大きいので、クロスボーダーM&Aを行うにあたり、3つのリスクに注意しましょう。

①カントリーリスク:
カントリーリスクとは、海外企業とM&A取引を行う際、相手国の政治・経済面など情勢の変化により収益性が変動するリスクを言います。
政治情勢や経済が不安定な国は多いです。政治リスクとしては、利益を得ていてもこれらのリスクが生じた結果、資金の回収が不可能になることがあります。場合によっては取引自体が無くなります。

例えば、複雑な法規制を敷いている東南アジアの国々では、外国投資に関わる投資に対する様々な法規制が存在します。株主構成や取締役会の構成に関する規制や、持ち株比率に関する制限、不動産保有に関する制限などであり、その改正も頻繁に行われています。取引を検討するにあたり、情報のアップデートをしておきましょう。

②訴訟リスク:
「訴訟大国」と言われるアメリカをはじめ、海外では訴訟問題が数多く起こります。訴訟となれば損害賠償金は莫大な金額になります。
事前のデューデリジェンスを綿密に行うことで、細微なリスクを見落とさないようにしましょう。小さな問題が大きな訴訟問題に発展するリスクを低減するのです。なお、保険に加入するのも一つの対応策となります。

③環境リスク:
クロスボーダーM&Aにおける「環境リスク」とは、環境汚染の発生から生じるリスクです。国により環境に対する認識は異なります。環境保護に厳しい国では、土壌汚染による数億円単位の罰金が発生しかねません。
訴訟問題に発展させないためにも、環境デューデリジェンスを行い事前に環境リスクを把握しておきましょう。

 

クロスボーダーに関連のある用語

ここまで、クロスボーダーM&Aの解説と、その注意点についてご紹介してきました。
続いては、本文内でも出てきた関連用語について、詳しく解説します。

 

In-Out型M&A

国内企業が海外企業を買収するM&Aを「In-Out型M&A」と言います
近年このM&Aが増加傾向にあります。その増加の背景には、円ベースでの買収価格低下となる「円高」が挙げられることもあります。しかし、少子高齢化による国内労働力人口の減少による国内市場の縮小傾向が主たる要因と考えられます。
In-Out型M&Aを行うことで、海外市場での経営規模の拡大・売り上げの増加を見込んでいるのです。

 

Out-In型M&A

海外企業が国内企業を買収するM&Aを「Out-In型M&A」と言います
こちらのM&Aは減少傾向にあります。国内の経済市場が縮小傾向にあるためと考えられています。
ただ、上述のとおり海外投資ファンドによる買収に目を向けると、異なる展望が見えてきます。経営難に陥る企業の経営を回復させることで利益を得るのですから、経営不振に陥る国内企業が増加した場合には、この「Out-In型M&A」も増加すると考えられます。

 

三角合併

上でも触れた「三角合併」の国内活用例はまだ多くありません。しかし、M&A取引の活発化と国内企業の経営難もあり、海外企業が日本国内の企業を買収する事例が増えてきました。
以下、三角合併を実行するメリットとデメリットをご紹介します。

 

【三角合併の3つのメリット】

①手間とコストを低減できる:
買収側のメリットですが、M&A取引を実行するにあたり、手間やコストを抑えることができます。三角合併における対価の支払いは、多額のキャッシュが不要であり、2007年5月以降には親会社が交付した株式をもっての決済が可能となりました。
また、三角合併の手続きに、通常の合併と大きく異なる点はありません。このため、過剰な手間をかけることなく実行できるのです。

②売却側にも望ましい条件:
対価の支払いにキャッシュが必要ない・海外企業が現行法の範囲内で取引可能な三角合併ですが、売却側にも望ましい条件が望めます。
三角合併を実施するには、当事者企業双方の取締役会の承認を得なければなりません。細微に渡る協議のうえで合意を取るので、友好的なM&Aとして売却側にとっても良い条件の合併が実現できるかもしれません。

三角合併では、買収側の、つまり親会社の株式が交付されます。その株価が高値で取引されていれば、換価の際に利益を獲得できる可能性があるのです

③親会社が相手企業をコントロールしやすい:
買収側である親会社が、吸収合併した相手企業をコントロールしやすくなります。現行の会社法の範囲で合併できるので、企業の拡大に効果を発揮します。
※会社法135条:子会社が親会社株式を取得することは原則として禁止する。
※会社法800条:三角合併を行う場合、存続会社である子会社が親会社の株式を取得することを例外的に認める。

 

【三角合併の2つのデメリット】

①経営や市場への影響を避けられない:
三角合併において子会社が親会社の株式を交付するためには、事前に親会社の株式を取得していなければなりません。
しかし、吸収合併が目的と言えども、子会社が親会社の株式を取得すればグループ企業間のパワーバランスに狂いが生じる他、市場にも影響を及ぼしかねません。
「親会社の100パーセント子会社」という前提から逸脱する可能性があるのです。

②場合により、手続きが煩雑になる:
万が一、債権者・株主が三角合併に反対を表明した場合、その都度対応し、手続きを行わなければなりません。組織の再編行為を伴う三角合併には、債権者保護と、合併に反対する株主の株式買取請求に応じることが義務付けられています。
これらに要する手順が煩雑なため、多くの手続きが必要となります。

 

まとめ

国をまたいで行うM&Aである「クロスボーダー」と、その関連事項についてご紹介しました。クロスボーダーM&Aは、国内企業同士のそれとは異なる特徴があることもご理解いただけたと思います。国内でのM&Aよりも複雑な手続きが必要です。国内市場の縮小に伴い、今後も日本企業による海外企業の買収はますます増えていくことでしょう。企業発展の有効な手段となりえるよう、国ごとに生じうる様々なリスクを考慮しつつ最適な調査・評価を行うことが大切です。

【M&A用語】クロスボーダーとは
国内経済市場の縮小と少子高齢化に伴う労働力人口の減少が続く中、組織が生き残るために海外進出を検討している企業経営者も多いことと思います。また、企業の成長には、企業利益の向上や改善の他、経営層に対する株主からの期待が込められています。
近年、海外進出による企業成長を目的に、クロスボーダーM&Aが活発化しています。
海外企業を買収すれば、海外進出ならびに海外市場の開拓をスピーディーに行うことができます。
今回は、企業の成長戦略の有効な手段の1つ「クロスボーダー」について解説するとともに、実行における留意点や関連用語もご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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