2019年3月28日 木曜日

【M&A用語】クロージングとは

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

M&A(買収・合併)取引を実行するには、数多くの段階を踏む必要があります。そして、最終契約を締結し実行した後にはクロージングを行い、事業の引継ぎや実質的な経営が始まります。
今回はM&A取引の最終局面であり、統合作業のスタートラインともなる「クロージング」をメインに解説するとともに、その関連用語をご紹介します。

 

クロージングとは

M&Aにおいて、最終契約書に基づく取引が実行され、M&Aの対象となるものの権利の移転が完了することを「クロージング」と言います。
権利の移転は、株式譲渡や事業譲渡などの引渡しと、買収側からの譲渡代金の支払い手続き(決済手続)により完了となります。

手続きには多くの法律要素が含まれます。一般的にM&Aアドバイザーの助言を得ながら進めます。

 

【M&Aに見るクロージング手続き】

後述する「クロージングの前提条件」を満たすことで、M&A取引のクロージングに到達できます。また、手続きに1つでも不備があればM&Aの有効性に疑義が生じるでしょう。このことから、最終契約日からクロージングまでには一定期間空けることが少なくありません。
以下にM&Aのスキームごとにクロージングの手続きをまとめました。

①株式譲渡:
売却側からクロージング書類と株券の引渡しがあり、買収側からの対価の支払いが済むと完了します。株式譲渡はM&Aのスキームで最も多く行われている手法です。

②事業譲渡:
中小企業の買収で多く見られます。資産・負債・権利義務の移管、並びに技術の譲渡や財産登記、従業員の転籍手続きなどを行います。
事業譲渡を行うには取締役会の承認と株主総会決議が不可欠である他、株主による反対が想定されるため、中小企業のような決議しやすい場合で多く採用されています。

③第三者割当増資:
売却側からの新株交付と、新たに発行された新株に対する払込みで完了します。
株式を公開している会社であれば、取締役会の決議により実行できます。ただし、無償付与、もしくは株式価格が妥当と判断される価格より10パーセント以上低い場合には、特別決議を求められる可能性があります。
なお、株式非公開企業では株主総会決議が必須です。

④合併・分割・株式交換:
当事者企業間で組織統合が完了し、それぞれの新株交付をもって完了します。
合併・分割によるM&Aは、株主総会による決議・債権者保護手続きが必要です。準備に時間がかかるため、M&Aスキームの中でも契約締結からクロージング日まで期間を要するとされています。

 

【クロージング日に行うこと】

M&A取引の当事者間で、必要書類・書類の有効性・適格性・書類の署名押印などの確認を行います。続いて、株式譲渡手続きと譲渡代金の支払いがなされます。

クロージングに至るには、最終契約書の条項に盛り込まれた「実行の前提条件」を満たしていなければなりません。M&Aスキームによっては準備に時間がかかります。
最終契約日とクロージング日まで一定期間を空けることもあれば、手続きの進捗状況により最終契約日とクロージングの日付が同日になることもあります。

 

M&Aにおけるクロージングまでの流れ


M&Aの交渉がまとまり、当事者間に合意が形成されれば最終契約書を作成します。この最終契約書には、M&A取引が実行される前提となる、必要な一定の条件「クロージングの前提条件」を盛り込みます。

最終契約書が締結されると取引実行のための手続き、つまりクロージングが始まります。

 

【M&Aにおけるクロージングの条件とは】

M&A取引の実行には、前提条件の充足が必須です。逆に言うと、この前提条件が満たされない限りM&A取引を実行しない、またはクロージングの前提条件を変更しなければなりません。

なお、前提条件を充足できない相手方への補償請求・損害賠償請求を行わない場合でも、一旦中止したクロージングの再開は困難でしょう。既に最終契約書を完成させていますし、クロージングに至るまでには長期間の交渉・調査を行っているのです。

条件の設定
一般的に、クロージングの条件は「M&A取引の実行の前提条件」として最終契約書の条項に盛り込まれます。客観的・具体的に定めることが大切です。
当該条項には許認可や訴訟、環境問題による場合など、一定条件を充足しない場合を想定した「停止条件」を定めることがあります。

一般的な前提条件の例
①クロージング日までの誓約事項が履行されていること
②M&A取引における一定事項に対する表明、並びに保証事項が正確であること
③主要役職員による同意を得ていること
④主要取引先企業からの取引継続の同意を得ていること

 

【条件が満たされないときの対応例】

前提条件が満たされない場合にどのような対応が必要か、柔軟かつ慎重な検討が求められます。以下のような対応が考えられます。
①M&A取引を実行しない
②前提条件の充足を待ちながら、再度M&A取引の実行について取決めを行う
③M&A取引の実行後に条件を充足させることとし、一旦前提条件を破棄。M&A取引を実行する

 

クロージングに関連のある用語

M&A

M&Aとは、英語の「Merger(合併)&acquisition(吸収)」の略で、企業の合併と買収を言います。
株式譲渡・事業譲渡・合併・分割の他、経営権の移転を伴わない資本提携・営業権譲渡もM&Aに広義的に含まれます。簡単に表すならば、経営権の移転を伴う経済行為と言えるでしょう。
現在、M&Aの市場規模は拡大傾向にあります。拡大の背景として、事業継承問題の表出や経済のグローバル化の他に、支援制度の充実・支援機関の増加と買い手の増加が考えられます。

 

【近年のM&A市場の傾向】

国内M&A市場は、リーマンショックや東日本大震災の影響から、会社法施行前の水準まで落ち込みを見せたことがあります。
しかし、2011年以降はその市場規模に拡大傾向が見られます。その取引総額も、M&Aの件数増加に伴って急騰しています。

近年の市場傾向として、当事者企業双方にM&Aを増加させる要因があります。堅調な景気の中で、少子高齢化による労働力人口の減少・人材不足の深刻化・業績の拡大志向の増進の解決策としてM&Aが注目されているのです。

また、国際間のM&Aにも動きが見られます。IN-OUT取引は増加傾向に、OUT-IN取引は減少傾向にあります
M&Aの市場規模は今後も拡大すると考えられます。中小企業のM&Aをはじめ、海外進出を目的にクロスボーダー型M&Aの増加が見込まれるからです。

 

【M&Aの目的】

「事業の拡大・縮小」を主たる目的として、複数企業がお互いの利益のためにM&A取引を行います。M&Aの手法毎にメリット・デメリットはありますが、当該企業間の効率的な資源を利用することで、企業・組織の課題解決ができることでしょう。

①売却側企業:企業再生・事業承継・事業の選択など
②買収側企業:既存事業の規模拡大・人材並びに技術の確保・新規事業獲得など

 

アーンアウト条項

アーンアウト条項で約束するのは、「売却側が言うところの対象事業が業績を上げることが確認できるまで、買収側はそれに見合った対価を支払わない」ということです。

つまり「アーンアウト条項」とは、M&A取引の実行後「一定の期間内」に、売却される事業が「特定の目標を達成した場合」に、買収側が売却側に対しあらかじめ合意した算定に方法に基づく「買収対価の一部を支払う」こととする「規定」のことを言います。

価格について合意できず、案件不成立となる場面を考えてみましょう。
「売却対象となる事業が売却後の一定期間に定められた業績を上げた場合、買収側が売却側に所定の金額を支払うこと」に当事者双方が合意すれば、価格評価のギャップを埋めることができます。ここから、M&A取引を成立させることが可能になります。

なお、アーンアウト条項が採用されるのは、売却対象となる会社が非公開企業の場合に限られます。そしてこの条項は、買収側が自社のリスクを軽減させる目的で採用するのが一般的です。このため、成長途上にある非公開会社を大企業が買収するケースで多く用いられています。
また、この条項を設けるには一定の決まりがあります。第一に、対象事業の価値評価の鍵となる指標を特定する。そして対象事業の売却後の一定期間(概ね1~3年が多い)を、その支払い対象期間として設定するのです。

 

【国内におけるアーンアウトの現状】

日本国内におけるM&A取引で、アーンアウト条項はそれほど活用されていないと考えられます。その理由は主に2つ。

まず、アーンアウト条項が当事者に周知されていないことです。IN-OUT・OUT-INなど、当事者の一方が海外企業である場合は採用されることが多いアーンアウト条項ですが、国内での案件では価格に折り合いがつかなければ取引を断念することが多くみられます。アーンアウト条項が広く周知されていれば価格に対する合意が形成され、成立した取引も存在したことでしょう。
次に、企業価値評価の浸透度が高くないことが挙げられます。裏を返せば、M&Aアドバイザーなどのプロフェッショナルや企業のM&A担当者がアーンアウト条項に対する認識を深めることで、自社利益を高められる可能性があるのです。

 

【アーンアウト条項を入れるメリット】

売却側のメリット:
売却対象事業が所定の業績に達成した場合、それに見合った対価を得ることができます。当初希望していた売却事業の価値に見合った買収対価を取得できるのです。

買収側のメリット:
買収対象事業が所定の業績に達しなかった場合には、更なる対価を支払わずに済みます。リスク回避に有効な手段となります。

 

【アーンアウト条項を入れることによるデメリット】

主なデメリットは売却側に生じます。業績目標の達成度合いに応じて対価が支払われるので、全額を一括で受け取れなくなります。このため、売却時に多額の現金を取得できないのです。

 

【アーンアウト条項を用いるときの注意点】

このように、アーンアウト条項は、売却対象事業の価値評価にギャップが生じている場合に有効とされます。しかし、当条項を採用するにあたり以下の点に留意しましょう。

①アーンアウトにおける評価指標の選択:
対象事業の移転後、アーンアウト条項に基づく支払いを無くしたり、その支払額を低下させようとするインセンティブが働きます。財務目標の達成の成否が買収側に操作されることが無いよう、売却側が一定期間経営に参画する等の対応が必要になります。

②アーンアウトの評価期間の設定:
アーンアウトの評価期間は、おおむね3年以内とすることが多いです。評価期間が長くなるほど、想定外の事情が発生する可能性が高まるからです。

③事業売却を想定した法整備:
売却側が支払いを受ける権利を侵害されないよう、買収側による対象事業売却を想定した法整備が求められます。買収側が、売却側の同意を得ることなく対象事業を再売却すると、アーンアウト条項に基づく支払い条件が充足されたか否かを評価できなくなるからです。

 

価格調整条項

譲渡価格は最終契約書に必ず記載されます。「価格調整条項」はクロージング日までの対象企業の企業価値の変動を考慮し、事後的に価格調整を行う目的で採用されます。価格調整は、契約日の財務数値とクロージング日を基準として作成された財務数値とを比較して行います。具体的には在庫や収益などの変動が価格に反映されます。

なお、価格調整を行う方法は様々な種類があり、株式譲渡契約の場合、クロージング日における対象企業の財務情報の作成方法の他、調整に用いる具体的な数式も事前に規定しておく必要があります。

ただし、大抵のM&A取引において、契約で定めた企業価格をクロージングの日に変更することはありません。
価格調整条項を盛り込まない場合は、交渉段階で価格の着地見込みを盛り込む必要があります。双方が納得する価格とするにはデューデリジェンスを有効に活用します。

いずれの場合も、クロージング後の円滑な事業引継ぎを求めることに変わりはないでしょう。

 

まとめ

M&A取引の最終段階である「クロージング」を解説するとともに、その関連用語についてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
この最終局面に至るには、重要な前提条件があります。しかし、M&A取引の契約成立と実行は、事実上の経営と事業の引継ぎ開始でもあるのです。
事後の統合作業と当事者企業の利益のためにも、条件設定や条項の付帯には慎重かつ柔軟な検討を重ねていきましょう。

【M&A用語】クロージングとは
M&A(買収・合併)取引を実行するには、数多くの段階を踏む必要があります。そして、最終契約を締結し実行した後にはクロージングを行い、事業の引継ぎや実質的な経営が始まります。
今回はM&A取引の最終局面であり、統合作業のスタートラインともなる「クロージング」をメインに解説するとともに、その関連用語をご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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