2019年3月24日 日曜日

【M&A用語】オークション (競売) 方式とは

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

M&A取引の検討を始めたとき、「自社の売却先をどのように選択するのが良いか?」という疑問が湧くことも多いでしょう。今回はM&Aにおける手続き方法の1つである「オークション(競売)方式」についてまとめました。併せて、そのプロセスもご紹介します。最終価格交渉を行う対象企業を選ぶために、ぜひ参考になさってください。

 

オークション (競売) 方式とは


M&Aにおける「オークション(競売)方式」は、M&Aの手続き方法の1つ。入札方式・コンペ・ビッド方式とも言います。売却案件に対して複数の買収希望会社が入札を行い、最も良い条件を提示した買収企業が最終的な交渉権を得ます

この方式を取り入れるにあたっての条件は、買取金額だけではありません。スキーム・買収後の経営方針・ビジョンも選考の対象になります。このため、最高価格を提示した会社が必ずしも落札者になるとは限りません。但し、後述する相対(あいたい)方式と比べて、高額で決着することが一般的です。

 

【オークション(競売)方式のプロセス】

売却案件となっている「譲渡対象企業」を、複数の買収希望企業が参加するオークションに出品し、最も良い条件を提示した企業に譲渡するのが「オークション(競売)方式」です。

①M&Aの検討及び準備:
M&Aの情報収集・方針決定・アドバイザー選定・スキームの検討・価格の決定・スケジュールの策定を行います。M&Aの設計図をつくる段階です。

②入札者を募集:
売却側は起業の業績や特徴をまとめた企業概要書を作成し、興味を示した買収希望企業に情報提供していきます。企業が入札しやすくなるよう、質問対応もおこないます。

③買収候補企業の選定:
入札者の募集後、入札を行います。複数の入札があった場合は、買い手候補を絞り込みます。売却先企業の選定には、価格条件のみならず用いるスキーム・経営方針も考慮します。また、経営者同士の面談により相手を理解し、良好な人間関係を築けそうかも確認します。その後、最終価格交渉を行う1社に絞り込み、今後の方針について基本合意を行います。

④調査と条件交渉:
価格交渉企業に選ばれた買い手企業は、「デューデリジェンス」と呼ばれる「買収前の企業価値の調査」を行います。ここで会社について十分に調べ、調査結果をもとに、価格の見直しや売買条件の最終交渉を行います。

⑤最終契約書作成とM&A契約締結:
条件交渉がまとまると、内容を最終契約書に落とし込み、M&Aの契約を締結します。

⑥クロージングとPMI:
最終契約書の締結後、売り手・買い手双方とも、クロージングまでに所定の義務を果たしていきます。譲渡対象物に対する代金の決済が済むと、無事M&Aが成立となります。
但し、クロージングによって全てが完了とはなりません。「PMI」というM&A成立後の統合作業を通して、的確な引継ぎを行います。具体的に言うと、企業風土や人材の「ソフト面」・各種社内システムなど実務的な「ハード面」の統合作業であり、事業の引継ぎや実質的な経営はここからスタートするといっても過言ではありません。

 

オークション (競売) 方式のメリットとは


自社を売却にかける売却側企業のメリットをご紹介します。

◎好条件の金額提示:
オークション方式において、買収候補企業は競合相手を意識せざるをえなくなります。このため、より高い条件を引き出すことができます。また、複数の買収希望会社から金額を提示されるので、対象企業の比較検討を行いやすくなります。売却金額も、相対方式と比べて高額で決着することが一般的です。

◎短期間、且つ良い条件での決着:
短期間、且つ自社にとって好条件での決着をつけやすいのもオークション(競売)方式の特徴です。M&Aの会社売却の場合、一旦売却を決定し交渉が始まれば、買収候補企業・取引先企業・自社内に売却の噂が広がっていきます。この場合、時間が経過するほど会社の信用への不安・取引先の乖離という事業価値の毀損が起こりがちです。オークション方式は複数の買収候補企業を一気に比較検討できるので、短期間での決着をつけやすく、確実な売却に効果を発揮するでしょう

◎売却側の懸念を払拭:
売却側企業の経営者としても、交渉が長引けば長引くほど経営意欲の低下を起こしがちです。思い切った経営戦略を実行できなければ企業価値にも悪影響が生じます。オークション方式ならば、複数の買収希望会社に対して、同一条件でM&Aを検討・提案してもらえるので、「他に良い買い手候補があるのではないか?」という懸念を払拭し、安心してM&Aを進める事ができます。

◎管理しやすいスケジュール進行:
複数企業を同時進行のスケジュールに載せて検討させるので、M&A完了までのスケジュールが読みやすくなります。

 

オークション (競売) 方式のデメリットとは

前項のメリットに引き続き、オークションにかける売却側企業のデメリットをまとめました。

◎求められる専門性:
様々なメリットがあるオークション方式ですが、それによるデメリットも存在します。一度に複数の買収候補企業と交渉するにあたり、金額以外のスキーム・経営方針・ビジョンに対する比較検討も求められます。このため、オークション方式は事務フローが複雑になるため、実行には高い専門性と実施経験が求められます。また、その分売却企業側の手間もかかることになります。

◎提示金額を重視した買収企業の選択:
提示金額だけで買い手企業を選択しがちになり、企業同士の相性や買収後の経営方針・ビジョンなどを見落としがちになります

◎働かない競争原理:
オークション(競売)方式の入札は、後述するデューデリジェンスの「前」に行われることが一般的です。最終価格交渉は1対1で行われることから、価格や契約内容の本格交渉を行う時には、競争原理を働かせることができなくなります

 

オークション (競売) 方式に関連のある用語


ここまで、オークション(競売)方式と、そのメリット・デメリットについてご紹介してきました。次に関連する用語として「M&A」と、オークション後に行われる「デューデリジェンス」、売却先企業の選定の方法の1つである「相対方式」について解説します。

 

M&A

M&Aとは、英語の「Merger(合併)&acquisition(吸収」の略であり、企業の合併と買収を指します。一言で言うならば「経営権の移転を伴う経済行為」です。株式譲渡・事業譲渡の他、広義的には経営権の移転を伴わない資本提携・営業権譲渡も含まれています。

【M&Aの目的】
複数企業により行われる「事業の拡大・縮小」が主たる目的です。M&Aの各手法によりメリット・デメリットはありますが、いずれもお互いの利益のために行われるものであり、当該企業間の効率的な資源を利用することに変わりありません。

【M&A取引増加の背景】
現在、M&Aの市場規模は拡大傾向にあり、そこには主に4つの背景があります。
①事業継承問題の表出
②買い手の増加
③経済のグローバル化
④支援制度の充実、及び支援機関の増加

 

デューデリジェンス

デューデリジェンスは、「Due(義務) Diligence(努力)」の略で、企業価値の査定ならびに法律関連の資産についての調査を指します。M&A取引における売り手・買い手の「情報の非対称性」を解消するために行われ、その調査対象項目には、買収対象企業の事業内容・経営実態・経営環境の詳細が含まれます。M&A取引の意思決定や判断の材料として欠かせない、重要な調査です。

その調査の切り口によって複数の調査がありますが、全ての調査を行う義務や必要性はありません。個々の案件状況から判断し、適切なものを選択して調査を行います。
実施には専門知識が求められることが多く、買い手からの依頼を受けた専門機関が調査を行うことがほとんどです。財務系コンサルティング会社・税理士・公認会計士・監査法人・弁護士などがそれに当てはまります。

 

【主なデューデリジェンス】

まず、一般的なデューデリジェンスを5つご紹介します。

◎ビジネス(事業)デューデリジェンス:
事業にリンクする内容を調査します。対象企業の経営実態を把握し、事業の将来性を見定めるために行います。取扱商品・サービスとそれらに関連するビジネスモデルが主な調査項目です。合併や買収であれば、自社へのシナジー性への価値判断もなされます。

◎ファイナンシャルデューデリジェンス:
企業の財務に関する審査を行います。事業計画との整合性・収益性・過去の業績推移・設備投資など、財務諸表からあらゆる観点の分析を実施します。また、この場でキャッシュフローの分析も行われます。財政状態の把握のためであり、会計事務所・監査法人への依頼も多くなされています。

◎税務デューデリジェンス:
過去の税務リスクを調査します。M&Aにおける税関連の調査は大きく2つ。合併・買収前の税務申告に関わるものと、合併・買収後の再編時に発生する税に関するものです。税務デューデリジェンスでは、過去の税務処理を把握することはもちろん、税務申告書の確認も行います。また、法人税の未払いや将来発生するであろう税務リスクについても調査します。

◎リーガル(法務)デューデリジェンス:
対象企業を法律・法務面で調査します。調査項目として、例えば会社組織・株式・契約書・許認可・違法行為・訴訟・紛争の履歴や可能性、知的財産権・主要株主の履歴の確認などがあります。これらの調査項目からM&A取引に影響を与える法務上の問題が無いかを調査するため、弁護士を始めとする専門機関に依頼することが通常です。
特に、対象会社が重要な訴訟や紛争を抱えていたり多額の損害賠償請求を受けていたりする場合のリーガルデューデリジェンスは欠かせません。

◎人事デューデリジェンス:
企業のソフト面として貴重な資産のひとつ、人材に特化して調査を行います。人事制度・人事戦略・人事システム・労使関係・人件費などが調査対象項目に含まれます。

 

【その他のデューデリジェンス】

上記の他にも、様々な調査があります。ここでは3つピックアップしてご紹介しましょう。

◎環境デューデリジェンス:
国内外における環境問題への意識向上から、環境デューデリジェンスの重要性が増しています。これは、投資先の価値やリスク調査のため、土壌・地下水汚染問題に特化して行われています。

◎技術デューデリジェンス:
対象企業が保有するハード面についての調査を行います。技術の高度化・精密化が進む中で、有形資産である技術や設備について調査します。特殊技術分野での採用が多く、品質調査・試験・融資獲得力などが対象項目となります。

◎知的財産デューデリジェンス:
知的財産デューデリジェンスは「無形」の財産に対する調査と言えます。知的財産の調査には、その性格上、法令・判例・慣習という高度な専門知識が求められます。共同開発や事業提携が増加する昨今、欠かせない調査の1つでしょう。
なお、価値に対する評価基準は確立されていません。今後、特許庁による標準手順書の策定が待たれるところです。

 

相対方式

「Negotiated Transacation(System)」を訳したもので、M&Aの手続き方法のひとつです。売却案件に対して、1社ずつ買収希望会社と交渉を進めていき、提示された条件が売却企業にとって満足いくものであれば売買契約を締結します。

【相対方式のメリット】
良い取引相手に恵まれれば、オークション方式と比べて交渉に要する時間を節約できるメリットがあります。また、交渉によっては、売却側に合った条件のすり合わせをしやすくなるでしょう。

【相対方式のデメリット】
中小企業で多く行われる相対方式では、M&A仲介業者の選定がポイントとなります。前述のメリットの通り、「良い取引相手に恵まれれば」交渉に要する時間を節約できるのが相対方式です。つまり、M&Aを好条件で進めるためには、早期に良い買収候補企業との交渉を行うことが重要であり、間に立つM&A仲介業者によっては交渉の成否が左右されるのです。

 

まとめ

今回はM&Aの用語である「オークション(競売)方式」について解説するとともに、その関連用語も併せてご紹介してきました。

オークション方式は短期間で同時期に複数企業の選定を行えることから、メリットの多い手法ということがおわかりいただけたと思います。しかしそれと同時に、適切な運用には、専門知識と金額以外の情報の精査も重要であることが導き出されました。デューデリジェンス前に行われることから、M&A取引の明確な目的設定の下、今後も慎重かつ適切な比較検討が必要となるでしょう。

【M&A用語】オークション (競売) 方式とは
M&A取引の検討を始めたとき、「自社の売却先をどのように選択するのが良いか?」という疑問が湧くことも多いでしょう。今回はM&Aにおける手続き方法の1つである「オークション(競売)方式」についてまとめました。併せて、そのプロセスもご紹介します。最終価格交渉を行う対象企業を選ぶために、ぜひ参考になさってください。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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